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映画『スリー・ビルボード』(2017年)のザックリとしたあらすじと見どころ

映画タイトル:スリー・ビルボード
原題:THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI
製作年:2017年 アメリカ・イギリス
監督:マーティン・マクドナー

映画『スリー・ビルボード』は、

ミズーリ州の田舎町を舞台に、娘を殺された母の「怒り」を描いた作品です。警察と警察署長を批判する3枚の看板を立てたことから「怒り」が「怒り」を呼び、事態は思わぬ方向に転がっていきます。

主演はこの映画でオスカーを獲得したフランシス・マクドーマンド。

「怒り」は何を生むのでしょうかー。

キャスト

・フランシス・マクドーマンド(ミルドレッド・ヘイズ)
娘を何者かに殺害される主婦 夫とは離別

・ウディ・ハレルソン (ウィロビー署長)
警察署長 ミルドレッドの抗議に対しある行動をおこす

・サム・ロックウェル(ディクソン巡査)
粗暴で差別主義者の警官 老いた母と同居

・ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ(レッド)
ミルドレッドの依頼で看板を出す広告会社の経営者

映画『スリー・ビルボード』の見どころと感想

(C)2017 Twentieth Century Fox

娘がレイプされ焼死体で発見されてから7カ月ー。母ミルドレッドはミズーリ州の郊外の道路脇にある看板に3枚の広告を出します。

レイプされて死亡 / 犯人逮捕はまだ? / なぜ?ウィロビー署長

この看板は市民やメディアを巻き込んで物議を醸しますが、名ざしされているウィビロー署長は人望が厚く、しかもすい臓がん末期であることも周知の状況。なので「そんな署長さんに対しこんな看板を出しやがってー!」という非難の声が上がります。ミルドレッドへの嫌がらせは息子にも及び、若い妻と再婚した元夫もミルドレッドを批判するばかり。

そんな中、ウィビロー署長は妻子を残し拳銃自殺。ウィビローを慕っていた部下のディクソン巡査は、怒りの矛先を広告会社のレッドに向け激しい暴行を加えます。これを目撃していた新署長。ディクソンは警察をクビになります。

一方、何者かに看板を燃やされたミルドレッドは、その報復として警察署に火炎瓶を投下。が、運悪く署内にはディクソンがー。

自殺したウィビローが残した手紙を読み心を動かされたディクソン。大やけどを負い運ばれた病院で同室になるのは、自身がボコボコにしたレッドでした。ディクソンはそのレッドからも救いの手を差し伸べられます。

これを機にレイプ殺人事件を独自で捜査し始めるディクソン。

ようやく疑わし人物を見つけ、命がけで証拠を得ようとしますがー。

評)「怒り」や「善悪」が混在する世の中で生きていく

まぁ、こんな感じで「怒り」が「怒り」を呼ぶわけです。特にミルドレッドの怒りの度合はハンパなく、警察署に火炎瓶を投げ込む姿はもはやソルジャー。一方、ディクソンの粗暴さも尋常じゃありません。

なぜこれほどまでに「怒り」を持つのでしょうか。

2人の「怒り」の裏側には個人的な恨みだけでなく、根強く差別が残る閉鎖的な地域社会や境遇が存在しています。映画はその空気漂う中で展開されていくので、見ている側もミルドレッドたちの「怒り」にただドン引きするだけでなく、心のどこかで「怒り」やその発露となる「暴力」をも受け入れてしまうのでしょう。

また、この映画では「善悪」や「白黒」がないまぜに描かれています。

人望も厚く慕われていたウィビロー署長は完全な善人であったわけではなく、粗暴なディクソンが後半に見せる命を顧みない行動は、彼がただの悪者ではないことを示しています。ミルドレッド自身も被害者(の母)でありながら、ある時点から加害者となっていきます。

善の中に悪があり、悪の中に善がある。本当に悪い奴は誰なのか、怒りをどこにぶつければいいのかー。そんなモヤモヤ気持ちを抱えつつ迎えるラスト。

疑わしきヤツを殺しに行こうとするミルドレッドとディクソンはこんなやりとりをします。

「ほんとにいいの?」
「やつの殺し?あんまり。そっちは」
「あんまり」

この結末に「怒り」や「善悪が混在する」世の中で生きていくものとして、救われる気持ちがするのでした。

この映画でオスカーを獲ったフランシス・マクドーマンド。マーティン・マクドナー監督からオファーがあったときに、ミルドレッドの「年齢設定」にしっくりこなかったといいます。

ミルドレッドの設定は58歳。殺害された娘を生んだのが30代の後半となると、労働者社会の中では稀な高齢出産なためリアリティがないんじゃないかと。なので「祖母」という設定はどうかー、と意見したそうです。

が、これに異を唱えたのは、夫ジョエル・コーエン監督。

「監督がそれでいい、って言ってんだから、そのとおりにしなさいっ!」

このエピソードを踏まえて映画を見ても年齢設定の違和感はありませんし、むしろ稀な高齢出産に至ったミルドレッドの半生までをもいろいろと想像して、あの表情、あのいで立ちに納得してしまう面白さもあります。

あの表情ができるフランシス・マクドーマンドでなかったら、この映画はないよな、と思わせるさすがの存在感です。


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