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『訪れた証・9』

津久井英明(Hide)

 この話は2022年3月2日にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。そのままここに掲載いたします。これは掲載第173作目です。

 2022年は1月末に旧正月の休暇が始まった。タイミングよく20年以上前にいただいた旧正月に配られる紅包(お年玉)の現物が出てきた。紅包の話を書いたときに写真を本文に添えたかったのだが、当時は見当たらず叶わなかった。

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実物の紅包。袋が中華な感じです。中にはお札が入ったままで未使用です。

 旧正月の休暇のスタートはちょうど前作のロンドンタクシーの話を投稿した週末。掲載されるとなるとその時期は旧正月真っ只中の2月初旬。時期的に今回の中国・北京の話を先にすべきだったとタイミングの見誤りを悔やんだ。

 あとは原稿を送信するのみとなった土曜日に本のイベントへ行った。場所は田原町にあるReadin’Writin’BOOK STOREという本屋さん。欧米の書店のような雰囲気があり、品揃えから本のセレクトショップの趣もある場所だ。

 台湾では有名な食通の方の食に関するコラムを厳選して和訳した「味の台湾」と、新宿にある僕も足繁く通っているベルクというビールとコーヒーで有名なお店のフリーペーパーを編集した「底にタッチするまでが私の時間」の二冊が対象のイベントだった。

 イベントは「味の台湾」の訳者である川浩二さんと「底にタッチするまでが私の時間」の編者である木村衣有子さんの対談形式で進んだ。興味深いお話をたくさん拝聴できたひとときだった。

 トークの中で川さんが以前訳された「中国くいしんぼう辞典」という本のことが出てきた。とても面白そうなので読まなくてはと思った。

 前作の投稿を終えてホッとしつつも、この話の投稿のタイミングを思案していた。気が付くと北京オリンピックが始まっていた。気になり始めた本は中国に関する本。3月初旬の掲載を目標にこの話を書くことにした。3月初旬ならまだ世の中には北京オリンピックの残り香がしているだろうし。

 振り返ると北京の話を書くのはおよそ14年振り。いつかまた北京の話を書くときが来るだろうと思って、北京で入手したものをひとまとめにしておいた。それらを今回引っ張り出してきた。

 全て仕事だったが北京は航空会社に勤めていたころに何度訪れただろうか。いまでもたまに思い出す3つの大きな仕事がある。一番は北京からデトロイトへの直行便の機内食の準備。就航までに何度も北京へ行った。

 その直行便の運行が落ち着いてきたタイミングで行われた機内サービスのデモストレーションの準備。これは中国国際航空の乗務員のトレーニング施設で行われた。こちらからはデトロイトをベースにしている客室乗務員の精鋭たちが参加した。それが2つ目。

 3つ目は機内食用の機材の棚卸しシステムを導入したとき。これはアメリカの本社主導で、僕の話に度々登場するリチャード氏が一緒だった。このときは北京だけではなく、上海、香港、台北も回った。

 以上全ては1996年から2001年のどこかで経験したことだった。何度訪れても観光する時間はほぼ皆無。デトロイトへの直行便の第一便が無事出発した後で二日間休みを現地で貰えたのが唯一だった。それも母親を呼び寄せるという当時のアメリカ人上司からの条件付きで。

 結局合間で仕事をしながらの二日間の休みになった。時間を有効に使って万里の長城と、紫禁城、天安門広場へ行った。

 他の仕事で訪れた際も、仕事の合間にせいぜい買いものと食事に案内してもらうくらいが多少仕事から離れられた時間だった。バーに行った記憶はない。

 そんな限られた自由時間の中で何とか記念になるものを入手しようとした。いただいたものもある。この話を書く上で本当に久しぶりにひとつひとつ手に取ってみた。いい味を出しているなという2022年のいまでも思うものもあれば、よくこんなものを買ったなというものもあった。

 歴史の時間に習ったものの実物をこれまで数々観てきたが、万里の長城は本当に圧巻だった。そのときに買ったマグネットは本当によく出来ていると思う。いまでも冷蔵庫のドアに付けている。

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これはよく出来ていると思います。上が春・夏、下が秋・冬バージョンでしょうか。

 登山の記念のようなピンは万里の長城から下りてきたところに並んでいた露店で買った。ロンドンの土産物屋でロイヤルファミリーの絵葉書を買うような感覚で毛沢東のバッジもいくつか買った。探したが見当たらなかった。いまなら絶対に買わない。

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左上のピンはピン先が本体からはみ出ています(苦笑)。これが中国のいまから25,6年前のお土産のクオリティー・・・。

 中華人民共和国の国章が付いたネクタイピンはお土産にもいくつか買ったと思う。ピンを挟んだ跡がネクタイに残りそうなので一度も使っていない。これもいまなら絶対に買わないだろうし、お土産にしようとも思わない一品だろう。

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ネクタイを傷めることを気にする以前に身につけるには少々勇気が必要なデザインだったかも。時間の経過とともに本体に劣化が見えます。しかし、独特の存在感があるな・・・。

 香港返還記念の腕時計。これも一度も身に着けたことはない。デザインや刻印に中国側から見た「香港返還」が垣間見えたから買ったのだと思う。香港サイドで作られた返還のメモリアルとの温度差がハッキリと分かる。鄧小平氏が亡くなったときは別の仕事で上海にいた。ホテルの部屋のドアの下から投げ込まれた号外か朝刊で知った。その号外はまだあるかもしれない。いずれ上海の話を書くときに。

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「香港回帰祖国」と刻まれているのが見えるでしょうか。1997年の香港返還に対する中国側の心情が伺えます。

 当時の北京は気の利いたバラ売りの絵葉書がなく、セット売りばかりだった。セットの中からいいものを見繕って友人たちに書いて出していた。手元に残っているセットにはそれぞれまだ何枚か残っている。

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      パッケージに時代や観光地である北京を感じます。

 機内サービスのデモンストレーションの細かな部分の下準備をしたのは香港の機内サービスのC先輩。Cさんは先々北京に乗務員のベース(拠点)が出来た際に責任者になり、香港と北京をかなりの頻度で行き来することになった。そのCさんから英語で書いてあるポケットサイズの北京語のフレーズ集をいただいた。出張の際にはよくバックの中に忍ばせた。いまではリーディンググラスの助けを借りなければ字がよく見えない。時間の経過を感じざるを得ない。

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今回改めて手に取ってみてガイドブックで世界的に有名なlonely planet発行のものだったことに気が付きました。北京語が分かるといろいろと便利。これから愛用したいと思います。先輩のCさん元気はどうしているだろうとふと思いました。香港、北京、成田で何度も一緒に食事をしたことが思い出されました。

 ホテルのステッカーはしっかりあった。北京ではホリデイ・インとヒルトン以外に宿泊した記憶がない。ホリデイ・インは特に思い出がたくさんある。

 ホリデイ・インにヒルトン。共産圏の中国では欧米人がホッとできる場所なのかもしれない。日本人の僕もこの西洋のホテルの中にいるときは肩の力が自然と抜けているのを何度も感じた。

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スーツケースにいまでも付いているもの(上)と未使用のもの(下)。  それぞれのホテルについてはいつか改めて書きます。

 いつかは休暇を取って改めて訪れて、自分のペースでゆっくりと街歩きやいろいろなことを楽しみたいと仕事の合間に思っていた。特に移動の車の中から見える景色がその想いを強くした。

 そんな想いを胸に秘めつつ限られた時間の中でひとつひとつを大急ぎで手に取ってきた。久しぶりに手にとって眺めてみたら、それぞれ不思議と愛おしくなってきてしまった。

 昨今の、特にここ数年の中国の香港と台湾に対する姿勢を見ていると、中国は僕の中で「ゆっくり訪れたい」と思える国ではなくなってきた。

報道に触れる度に眉間にシワが寄っているのが分かる。香港と台湾が大好きなだけに余計そう感じるのかもしれない。特に香港は遠くなってしまった気がしてならない。僕と同じような香港・台湾好きでそう感じているトラベラーは少なくないと思っている。

 イベントでお話を伺った際に興味を持った「味の台湾」と同じく川浩二さんが訳された「中国くいしんぼう辞典」をこの話を投稿したら読もうと思っている。この本は現在も版を重ねている。最近幸運にも初版で入手できた。中国で食べてきたものの記憶が甦ってくれるだろうか。

 読み終えたときに、自分の現在の中国に対する厳しい目や嫌な印象がいくらか緩んだり薄らいだりするのだろうか。「ゆっくり訪れたい」というかつての想いは復活するのだろうか。面白い本であることと食べものがいいきっかけを与えてくれることを期待している。

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「味の台湾」と同じく川浩二さんが訳された「中国くいしんぼう辞典」。 この本にはいろいろと期待しています。読了後の自分の中国の印象がどう変わるか楽しみです。

追記:                               万里の長城を訪れた話は『手作り』、旧正月のお年玉は『お年玉』、現在も足繁く通っているベルクについては『その角を曲がってみると・・・』というタイトルで書いています。未読の方は是非合わせてご笑覧ください。


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「おとなの青春旅行」講談社現代新書

「パブをはしごして、青春のビールをーイギリス・ロンドン」を寄稿


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