『初めてと久しぶり』
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『初めてと久しぶり』

津久井英明(Hide)

 この話は2019年8月にトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」に掲載された旅のストーリーです。現在も掲載されています。そのままここに掲載いたします。現在も「みんなのストーリー」に毎月一作旅の話を書いています。これは掲載第142作目です。

 では、前回申し上げたとおり今回からしばらくこの5月にギックリ腰を抱えて再訪した香港の話を。  

 出発日の天候はかなり強く雨が降ることが予報されていた。雨だと傘をさして自宅から最寄りのJRの駅までスーツケースを転がしながら歩いて行くのは困難。タクシーを呼ぶアプリを初めて使ってみた。スマホの画面の指示通りに進んでいくと、ワンメーターで行かれる距離でも迎車と同じなので千円以上かかることがわかった。

 アプリは便利だが使うとなると割高だと感じ、タクシー会社に直接電話して聞いてみた。運賃はやはり迎車の分だけ割高。アプリで手配するよりもほんの少し安かったのでそのまま頼んだ。当日はタクシーを手配しておいてよかったと安堵するほどの雨だった。出発直前にギックリ腰になったし・・・。

 成田空港までは最寄りのJRの駅前から直通バスを初めて使ってみた。いままで成田空港へは京成線をずっと使っていた。スーツケースを転がしての駅までの道中、特急への乗り換え、駅からチェックインカウンターまでのアップダウンを経る移動は年々億劫になってきた。

 直通バスは各ターミナルまで行ってくれるので楽だった。これからは成田まではバスだなと思った。しかし、一日に数本しかないのでこちらの時間が合えばの話となる。タクシーのアプリといいバスの時間といい、便利と不便は背中合わせだ。

 香港まではアイスクリームのフレーバーの一つが名称となっているLCCを初めて使った。間もなく果物の名前がついたLCCに合併されるとのことだ。LCCなので出発は第3ターミナル。第3ターミナルを使うのも初めてだった。チェックインカウンターのあるフロアは仮設ではないかと思わせる作りだった。

 チェックインの際に帰国時に香港のエアポートエクスプレスの九龍駅でもチェックインできるかどうかを尋ねた。航空会社によっては出来ないし、ガイドブックやネットなどの情報は最新ではないこともあるので。エアポートエクスプレスの駅でチェックインをして大きな荷物を預けてしまうのは、香港から帰国する際の手順のひとつとなって久しい。駅で預けてしまえば、その瞬間から成田や羽田に着くまで身軽でいられる。同じことが香港島の中環駅でもできるはずだ。

 チェックインをしてくれた職員は分からずすぐに上司に聞いていた。その上司も分からず、到着して現地で確かめて欲しいとのことだった。チェックインを終えた後でその会社のカスタマーサービスに自分で電話をして問い合わせてみた。明確な返事は得られず。こんな曖昧な対応も、これから搭乗する航空会社のダウンタウンのオフィスへ空港からわざわざ電話をしたのも初めてだった。

 チェックインを終えて予約しておいた香港で使うWi-Fiのルーターを受け取りに行った。ルーターをレンタルして旅に出るのは初めてだった。スムーズな対応でルーターを借りられた。

 掛け捨ての海外旅行保険に入ろうと受付カウンターを探したが見当たらなかった。やっと見つけた場所はルーターを借りたところと同じブースで、PCが一台ポツリと受付台に置いてあるだけだった。そのPCに必要事項を立ったまま黙々と入力していった。クレジットカードで決済してスマホにメールで証書が送られてきて手続き完了。初めての経験で結構衝撃だった。第3ターミナルで保険の申し込みができるのはそこだけだった。PCに慣れていない人は大変だろう。もう空港で出発当日に申し込む時代ではないのかもしれない。次回は自宅のPCで予め申し込んでおこうと思った。  

 出国審査を経て出発ゲートの近くに腰を下ろした。外は雨。ゲートにジェットウェイは付いていない。搭乗機に付けられたタラップまで傘をさすのかと搭乗予定の飛行機を眺めながら思った。視線を落とすと、ゲートからタラップまで簡易の屋根付き通路が用意されていた。仮設感が否めないターミナルといい、屋根付き通路といい、安いフライトでの旅の始まりはある意味統一感があった。

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出発ゲートのから眺めた搭乗予定機。何だかInstagram風の写真です   (苦笑)。

 座席は全てエコノミー。ほぼリクライニングしない。昨今の長距離バスのほうが乗り心地はいいかもしれないが、5時間足らずのフライトだったらこの程度で問題ない。行先がシンガポールやバンコク等だったら厳しい。そのときはレガシーキャリアにする。

 レガシーキャリアでは無料である飲食はLCCでは有料だ。ゲートの近くでペットボトルのコーヒー飲料を買った。水は小さいサイズのものを自宅から手荷物に忍ばせていた。

 旅慣れている母は、わざわざ機内でお金を払う機内食に興味を持ったようで、鶏の雑炊を頼んでいた。運ばれてきたときに一瞥しただけで私は読んでいた本に目を戻した。

 真後ろの親子連れが騒々しかった。子供は泣き叫ぶしその子の母親は隣の席の人と大声でしゃべりっぱなし。真後ろでおむつ交換が始まったときは言葉を失った。周りの状況を察した乗務員がその母親に座席の移動を勧めた。大丈夫ですと弾んだ声が聞こえた。こちらは全く大丈夫ではない。

 怒りが少々顔に出ていたのか、“キレちゃだめよ!”と小声でいう母親を、“キレちゃいませんよ。”と制して乗務員を呼んだ。真後ろの席の人たちに気付かれないように指をさしながら、落ち着かないので席を変えて欲しいと頼んだ。LCCの場合空席への移動は追加料金がかかるようだが、状況が状況なので無料で移動できた。いままで航空機にはかなり乗ってきたが、座席の具合が悪いこと以外で席を変えて貰ったのは今回が初めてであった。

 新しい座席に落ち着いてこれまでを振り返ってみると、出発直前のギックリ腰に始まり機内での座席変更まで、一日の始まりから結構な数の「初めて」を経験していた。

 持ってきたガイドブックで到着後の予定に沿って道順などをチェックした。初めて購入した「香港メトロさんぽ」が便利な上に面白いので読み入ってしまった。周りで香港行きを計画している人がいたらこのガイドブックを薦めようと思った。

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今回持参した香港関連の雑誌とガイドブック。旅の特集で好きな都市が取り上げられていたら女性誌でも買います。「香港メトロさんぽ」は左隅に見えます。お薦めします。

 ギックリ腰を抱えながら狭い機内での過ごすのは倍疲れる。成田での出発は滑走路の順番待ちで定刻より一時間以上遅れた。香港に到着してみると予定より大きく遅れてはいなかった。荷物も問題なく出てきた。入国審査はスムーズ。そこは返還前の啓徳空港の頃から変わらない。手元に残った出国の際に回収される入国カードに帰国の際に驚かされることになるとはそのとき思わなかった。

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帰国の際の出国審査で回収されるはずの出国カードが何故かいまでも手元に。何作か後で詳しく書く予定でいます。

 エアポートエクスプレスに乗る前に持参したOCTOPUSをカスタマーサービスで再利用できるようにしてもらった。それは7年前に訪れた際に購入して返金しないで持ち帰ったものだった。「reactivate」という単語を使って頼んだ。その単語を発したのは初めてだったかもしれない。

 持参したOCTOPUSには何と50香港ドル分残っていた。約7年ずっと残っていたことに少々感動した。母親にはシニア用のOCTOPUSを発行してもらった。シニア用があることを初めて知った。手続きは全てノーストレス。

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再利用したOCTOPUS。トラベラーズノートと同じように経年変化が楽しめるくらい使い込もうと思います。

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母の分と一緒に購入したAirport Expressのチケット。券売機ではなくカスタマーサービスで直接買うとこうなるみたいです。

 久しぶりのエアポートエクスプレスも以前と同じ。返還後新空港が開港したときからだからこれまで何度乗っただろうか。乗るたびに次回は必ずちゃんとチェックしようと思うことがある。それは進行方向に背中を向ける座席に座らないことだ。酔わないが何だか落ち着かないのである。列車が動き出してから「しまった!」と思うのを何度も繰り返してきた。

 久しぶりの香港、久しぶりのエアポートエクスプレスで「しまった!」を今回もやってしまった。それに気が付いたときに、少々落ち込んだが、香港に来たんだなと実感した。進行方向に向かって座れる席を探そうと思ったが、ギックリ腰の痛みがその席に留めた。

追記:

1. 約7年前に訪れたときのことは「私の発作的週末旅行」というタイトルで以前書いています。未読の方はどうぞご笑覧ください。

2. 発売以来表紙の写真をここに載せ続けていただいているロンドンの話を二話寄稿した「おとなの青春旅行」が発売から一年経ちました。まだ書店に並んでいます。未読の方は是非こちらもご笑覧ください。

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「おとなの青春旅行」講談社現代新書                「パブをはしごして、青春のビールをーイギリス・ロンドン」を寄稿


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津久井英明(Hide)
東京都生まれ。大学卒業後米国系航空会社勤務などを経て、現在は外資系システム会社に勤務する会社員。2007年よりトラベラーズノートのウェブサイト「みんなのストーリー」にHide名義で投稿を始めて現在に至る。 「おとなの青春旅行」(講談社現代新書)にロンドンの話を2話寄稿。