【園館訪問ルポ】動物園・水族館・アスレチックの交わる汽水域ーーアクアマリンふくしま「えっぐの森 どうぶつごっこ」(福島県いわき市)
2022年夏の訪問で鮮烈な印象を残し、再訪を心に決めていたアクアマリンふくしまにふたたび足を運んだのは年末になってからでした。真冬の小名浜港は透き通る光がたっぷり降り注いでいました。
初訪問時は日本の水族館の伝統的な展示形態である「汽車窓水槽」をアップデートした展示群が深く印象に残っていましたが、ゆっくり時間を取って施設内をくまなく歩いた2度目の訪問では、水族館の枠組みを超えて動物園、さらにフィールドアスレチックとも接続される「体験の場」に目を奪われました。日本中の水族館、そして動物園が試行錯誤し続けている「観察と体験の融合」を高いレベルで実現している現場をついに見つけた、と感じました。
順路の終盤、本館の外に出た場所に開かれている子供向け遊具が置かれたゾーン「えっぐの森 どうぶつごっこ」です。
さまざまなアスレチック遊具が配置され、動物になりきって遊びながら「動物の能力にチャレンジ」することができるこのエリア。
冬晴れの空の下、たくさんの子どもたちが全身を躍動させ遊ぶ声が響いていました。
「えっぐの森」にはアスレチック遊具を取り囲むように小獣舎が並んでいます。ここで飼育されているのは日本在来の動物たち。遊具のコンセプトも彼らの自然の中での動きを体感するものとなっています。
タヌキや二ホンアナグマなどを飼育するプロローグ的な位置付けの施設「縄文どうぶつえん」にも言えることですが、「水族館と言えば水の中の生きもの」という固定観念を持ってアクアマリンふくしまを訪ねると里山の陸生哺乳類が次々と現れることに驚かされます。私自身も初訪問時は「まるで井の頭自然文化園と葛西臨海水族園が一体となったような動物飼育施設だ」という第一印象を抱いています。
しかし、水族館・動物園のあいだに線を引くこと自体がもはやナンセンスなのかも知れません。地上の生きものも水中の生きものも生態系という大きな環でつながっているからです。
『大人のための水族館ガイド』で、葛西臨海水族園園長の錦織一臣さん(刊行当時は副園長)は次のように述べています。
アクアマリンふくしまでは現在進行形で、「動物園」や「水族館」といったカテゴリを超えていく取り組みが続いていることを再実感しました。
「えっぐの森」では遊びを通じて動物を理解することに加えて、ハンズオン展示によって動物の生態を見せたり、ゴミの持ち帰りを促しながら自然環境を考えさせるような子供向けの呼びかけ文も用意されており、「動物の身になって考える」という姿勢がゾーン全体に通底していました。
日本各地の動物園でも、「ふれあい」を中心とした子ども動物園が整備されています。また、「動物公園」としてアスレチック遊具が併設されている園も数多く存在します。
しかし、これまでの多くの日本の動物園では、動物たちの姿を「観察する」飼育舎と「遊び」のためのアスレチックはしばしば区分され、別々の場所に置かれてきました。
こうした日本の動物園の「子ども向けゾーン」のあり方について、ニューヨーク・ブロンクス動物園のデザイナー(当時)だった本田公夫さんは、作家の川端裕人さんを聴き手にして以下のように問題提起しています。
「えっぐの森」では、多くの「子ども動物園」のように動物たちに直接触ることはできません。しかし、観察と追体験による身体知とを結びつけ、より具体的に動物たちのあり様に子どもたちが触れる機会が提供されていました。
これも、またひとつの「ふれあい」の形ではないでしょうか。
Inspiring Aquarium――行動し、鼓舞し、触発する水族館。本館の入口に掲げられたテーマに、「水族館」の固定概念を超えた形で挑み続けるアクアマリンふくしまの革新に、私は「他の生きものを理解するための場所」の未来への一歩を見ました。