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【動物園歌会ふたたび】徳山動物園吟行補遺/安佐動物公園吟行

アカアシドゥクラングール

世界一美しい猿も水辺にてわれは猿だと思うだろうか

サバンナシマウマ舎の鳩 

しましまの脚の随(まにま)に藁を食む鳩の気持ちでつましく暮らす

徳山を発ち、広島に宿る。
バスセンターから1時間ほど揺られて安佐動物公園に着く。
徳山は歌会の共同主催者である友人とふたりで巡ったけど、
安佐ではひとりだった。


安佐動物公園は、いまはもういない
僕に短歌を教えてくれたひとが
「いつか行きたい」と呟いたまま、
最後まで訪れることはなかった園だった。

園に入るとすぐに巨大なヒヒの山が見えてきた。
なかなか離れられなかった。
あのひとはアヌビスヒヒが好きだった。


アヌビスヒヒ 

なにか溢れ出しちゃうような日々にこそうたが生まれて流れるよ(じゃばー)


手綱引く狒狒の力のたしかさをただ確かめた確かめたかった


じゃあ逆に聞くよ光っていくのならひとりの日々でもいいの 叱って


日が暮れてくれないの 空 くれないに染まるの いつも半端は嫌なの


彼岸にも狒狒はいるのか 南限の狒狒をひねもす沖で待ってろ

 
安佐動物公園には他にもたくさんの動物がいたが、
あのひとが見たくても見られなかったヒヒの山を目に焼き付け、
もういいだろう、という気持ちになっていた。
動物園を出て帰りの新幹線に乗り込もうとしたとき、
実家から連絡を受け取った。
祖父が急逝したので葬儀の準備をしなくてはならない、
準備をして実家に来てくれ、という報せだった。



僕は僕の許されていた日々が
本格的に終わろうとしていることに気づいた。



日を日々と呼ぶときひとは振り返り余生ではない余白を生きる


いつまでも追いかけているふさふさのひかりけもののかたちのひかり