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【歌会ルポ】動物園歌会(2021/11/06実施)・選評(後編)


 2021年11月6日(土)。「動物園」をテーマにした歌会「動物園歌会」を、twitterスペースで開催しました。

 ぽめさん(@zoo_no_otaku)との合同企画として立ち上げ、2021年10月31日(日)までに応募受付を行ったところ、総勢10名から39首の投稿があり、当日は8名の参加者から直接選評を頂きました。

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 当日参加がかなわなかった方々からも事前に選評を寄せて頂き、なんと39首すべてについて充実した鑑賞が広がりました。

 本記事では集まった歌のうち、27首~39首について当日の選評の概要を公開します。

・以下、歌の後の括弧内には作者ハンドルネームを表記します。

・選評のうち、「〇」付きは詠んだ方のコメントを、「・」付きは他の方のコメントを指します。

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27.振り向きて己が足跡凝っと見るレッサーパンダの渾名や女王(アヅ)

〇レッサーパンダ界の女王といえば現・鯖江市西山動物園の「ミンファ」さん。見た目の美しさだけでなくそのバイタリティの豊かさ並ぶ者なし。

28.温泉に入る猿見て思い出す 死んだ子供を抱いている猿(みう)

・テレビとかでも「サルが人間みたい」と取り上げられることもあるが、擬人化するよりももっと大きな視点からサルと人間との共通点に目を向けているように思う。

〇テレビで取り上げられていた地獄谷野猿公苑の「温泉に入る猿」を見て、大分の高崎山自然動物園で死んだ子供を離さず抱きかかえた母ザルの姿を思い出した。「人間らしさ」の現れ方もさまざま。

29.火狐の行く初めての庭の果てフラミンゴてふ未知との遭遇(アヅ)

・「火狐」はレッサーパンダ。「初めての庭」だから、どこか他の動物園から移ってきた個体だろうか。フラミンゴが見える園?

・未訪問の園を詠んだ歌は興味が掻き立てられる。どんな風景だろう?というような。

〇アドベンチャーワールドのレッサーパンダ屋外放飼場はアクリル板を隔てて隣がフラミンゴの放飼場になっており、慣れないうちはお互い興味深げに見つめ合う様子が見られる。

30.火曜日が嫌い地元に唯一の動物園が休みだったの(のま)

・歌の主人公の動物園に対する強い思い入れが伝わってくる。そんなに多くの動物園が一つの地域にあるわけではないのに「地元に唯一の」と強調しているあたりが、特に。動物園の「救いの場所」としての性格。

・あるいは歌の主体はいまは地元を離れていて東京などの大都市圏に居るのかも知れない。もう動物園になかなか行かなくなったけど、地元から離れて追憶しているようにも思える。

・語彙がうまく出てこないけど、ただただ「エモい」。

〇作者の地元の周南市徳山動物園も、火曜日が休園日です。遠方から遊びにお越しの際はお気をつけて。

31.カーテンをください色は水色で厚さは象の耳たぶほどの(ぽめ)

・「ただただゾウが好き」という気持ちが伝わる。なかなかゾウの比喩は出てこない。動物に喩えるというのが素敵だと思った。

・「カーテンをください」は家具屋での風景だろうか。その表現では店員さんには伝わらないかなぁ、と思いつつ、くすっとなった。

・「こころのカーテン」という心象風景を詠んだ歌でもあると思う。自己を閉じたいという心理の比喩としての「象の耳たぶほどの厚さのカーテン」。

・もしかしたら、「象の耳たぶ」の厚さが分かる飼育員が家具屋を訪れた場面というイメージもできるかも知れない。

〇周南市徳山動物園で飼育されている「ナマリー」(スリランカゾウ)の耳がひらひらと動いていて、カーテンのようだったので印象に残って歌の主題とした。

32.ライオンはレッサーパンダはトラはどこ声声の中バードホールへ(サルトリイヌイ)

・読み手の「自分を持っている」感が伝わる。人気動物たちを人々が探す中、「あえてバードホールへ」向かおうとする意志。

・「バードホール」という言葉の響きが格好いい。特選にしようか迷った。

・実際に動物園で動物を探す声はあちこちで聞こえる。よく見かける風景が丁寧に詠まれている。

〇名古屋市東山動植物園のコアラ舎からさらに進んだ奥にひっそりと開かれている「バードホール」を詠んだ。にぎわう園の中でひときわ静かで、気に入っている場所である。ぜひ名古屋に来た際は足を運んでみてほしい。

33.ガジガジとビロウで遊ぶ小熊猫折れた茎でロックン・ロール!(まゆげぬ)

・「ロックン・ロール!」の元気いい感じがすごく好き。

・「ビロウ」は「枇榔」。放飼場に植樹されたほうきのような葉が印象的な植物。

〇先日の名古屋市東山動植物園 の 「れいか」ちゃん(レッサーパンダ)を詠んだ。折れた茎がマイクスタンドに見え……なくもない?NANAの時の中島美嘉さんに見えなくないですか?(古い)

34.ストーブをつけたらひよこ集まった。上手いね、人と生きていくのが。(みう)

〇ここも具体的な園名は忘れてしまったが、たくさんのひよこたちとふれあえる園を訪れていた時のこと。寒い日でストーブを付けた瞬間その周りにひよこたちが集まっていって、彼らも生きているんだということを実感した。

35.運否天賦あざと可愛さが毛皮着てレッサーパンダしか勝たんとの噂(アヅ)

・「運否天賦」というあまり普段聞きなれない四字熟語と「あざと可愛さ」が「レッサーパンダ」を介して繋がっている。短歌のなかでのことばの立ち現れ方の柔軟さを感じさせる。

・気持ちがあふれ出ている。「かわいい!」という感情でいっぱいになっている様子の子どもたちを動物園で見かけることがあったのを思い出した。

〇TwitterのTLで見た「一般の女性のお客さん方がレッサーパンダの所で『やっぱり可愛く産まれたもん勝ちよね』と話していた」という話が元ネタ。可愛いは正義。

36.元彼と同じ名のサル元彼と同じ誕生日のアライグマ(ぽめ)

・リズム感がすごい。本当に動物園で掲示物を観ながら回想してぶつぶつ呟いている女の子の姿が目に浮かぶ。未練も強く感じる。

・もはや過去のものにしたい元彼の名前や誕生日をなかなか忘れられないいらだたしさが伝わってくる。

・動物園動物には流行の名前がつけられることがあるので「あるある」かも。

〇動物園では動物たちの姿そのものを見るだけではなく、掲示物を見る事での発見もある。ちょっとした個人的な思い出に気付くこともまた「動物園での発見」のひとつである。

37.パンダの尾ほど短ければシャンシャンの最後尾には並ぶだろうか(おらゑもん)

・「並ぶだろうか」と疑問形。「行列が短いから並ばない」か、「並んでいるから自分も並ぶ」のか。人によって感じ取り方が分かれそうな問いかけ。

〇いまもっとも一般的な知名度が高い動物園動物のひとりであろうシャンシャンを詠み込んだうた。後ろ向き写真が載っている「最後尾」の案内板を目にして詠まずにはいられませんでした。

38.ここだけで会える一頭彼自身知る由もなく日々過ごしゆく(サルトリイヌイ)

・「日本でここだけの動物」はしばしば動物園の売り文句として喧伝されるが、動物たちはただ生きているだけだということに気付かされた。

・「種の保存」が動物園の存在意義として掲げられるようになった状況だが、動物園で暮らす一頭一頭はそんなことも知らず日々を過ごしていくのみ。「動物園あるある」を詠んだ歌の中でも特に心に残った。

・「種の保存」と「生そのもの」の対比。

・人間が掲げる大きな目標に対する動物たちの「我関せず」の姿勢は分かる気がする。

〇「日本で最後の一頭」は各地の動物園や水族館に居るが、彼らは残された日々を全うしている。この歌のモデルになった日本モンキーセンターのゴールデンマンガベイ、「リート」もそんなひとり。21番の歌との連作。

39.今はもうふれあえぬふれあいルーム休憩している親子とカップル(ヒメヤ)

・皮肉っぽい感じもいい。「いま」を風刺するまなざし。

〇周南市徳山動物園の「ふれあいルーム」はかつて多くの人たちでにぎわっていたが、今は休憩所として使われている様子が不思議で歌の題材にした。

・「ふれあえぬふれあいルーム」はまさに2021年の現実をとらえている。いましか詠めない歌。短歌という表現には時代を切り取るという性格もある。

歌会全体を通じて

・題詠することを念頭に動物や動物園をまなざすのと写真に収めようというまなざしで巡るのとではやっぱり着眼点が変わってくる。でもだからこそ何度も訪れた園でも新鮮な発見があってとても楽しかった。

・歌会では普通触れられないまま終わる歌も出て作者の意図が謎のままということも多い中今回は三十九首全てを取り上げて下さってそれだけでも満足度が半端ない。とりわけ司会のぽめさんに感謝。

・レッサーパンダでなら何か読めるかなという軽い気持ちだったが、自分が込めた思い以上の評をしていただき感謝感激。

自分で特選・並選・気になる選を選ぶ事、またどういう気持ちで選んだのかを発言するのはとても緊張したけれど、うまく言語化出来ていれば良かったのですが……そこも含めて本当に感謝。

・とても楽しい会でした。世話人の方々に心より感謝いたします。「あの歌の/あの園に行き/あの子たち/見つけることが/次の楽しみ

・初めての短歌、初めての歌会、楽しかった。奇妙な歌を作ってしまったものの、興味深い評をもらってありがたかった。あっという間に2時間半。

・動物も短歌も、今まで以上に好きになりました


今回投稿された歌に登場した・モデルとなった動物園


〇高崎山自然動物園(大分県大分市)

〇福岡市動物園(福岡県福岡市)

〇周南市徳山動物園(山口県周南市)

〇ときわ動物園(山口県宇部市)

〇南紀白浜アドベンチャーワールド(和歌山県白浜町)

〇天王寺動物園(大阪府大阪市)

〇鯖江市西山動物園(福井県鯖江市)

〇日本モンキーセンター(愛知県犬山市)

〇名古屋市東山動植物園(愛知県名古屋市)

〇地獄谷野猿公苑(長野県山ノ内町)

〇横浜市野毛山動物園(神奈川県横浜市)

https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/nogeyama/

〇よこはま動物園ズーラシア(神奈川県横浜市)

https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/zoorasia/

〇大宮公園小動物園(埼玉県さいたま市)

〇恩賜上野動物園(東京都台東区)

〇釧路市動物園(北海道釧路市)

 非常に実りある歌会でした。また開催したいですね!参加して下さった皆さん、楽しい時間をありがとうございました。そして声をかけて頂き、企画・進行・準備・当日の司会と、フル回転で歌会を盛り上げて下さったぽめさん、本当にお世話になりました。ありがとうございました。