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やさしい悪魔と闘う。〈ラーメン二郎一橋学園店_小平市学園西町〉

西武多摩湖線の一橋学園駅の西側の路地に2022年の夏にやってきた43店舗目の「ラーメン二郎」と闘った話。

『ラーメン二郎が食べたい』の波が来る。だいたい半年周期ぐらいでやって来る。そんな一橋学園で用事がある日に「ラーメン二郎 一橋学園店」でその波を満たそうと頭に浮かぶ。でも並んでまではイイかなの軟弱で曖昧な気持ち。

それでも一応ね、うん、とりあえずと何かを期待をして踏み入れる路地の先。あれ、並んでない。近づき覗くと、席が空いている。奇跡じゃねとあたふたと店頭の自転車のラックに自転車を押し込み急いた気持ちでこんにちはする。

麺の量で「小」と「大」。それにチャーシューが増える「小豚」と「大豚」のみの基本の二郎の券売機。「小」をポチとして出てくる水色のプラ板。それでも麺量は350g。麺少なめでも闘える自信はなく、階級を麺半分でとお願いする。

セルフで水を汲むコップの上に常連のようにレンゲを置いて士気を上げる。オープンなキッチンに大柄で物腰柔らかな店主と小柄で愛くるしく朗らかで元気な今日の女子助手さん。

女子助手さんが青ザルにこんもりとヤサイを茹で上げる横で、店主は1ロットと呼ばれる一度に茹でられる6人分ほどの麺を茹で、豚を切る。頃合いで寸胴をぐりぐりとかき回し、並べるどんぶりにスープを作り、湯切りした麺を小さく見える平ザルをリズム良く転がしそれぞれに麺をダイブする。

「ニンニクは」と問い、「ニンニクアブラヤサイマシマシ」なんて返す呪文をやっつけて、先客の6人に配膳される様々な顔つきのラーメンたち。

1ロットを片づけて一息つき会話を交わす店主と女子助手さんの余白にこちらもなんとなく交じる心地よさ。

そんな次のロットで「ニンニクは」と女子助手さんにやさしく問われる。

いつものように「無しで」と答えるもたいてい阿吽でなく少し間が空くような感じがする。「普通で」がいいのか、ニンニクを入れないでアブラもヤサイもカラメも普通で良い時のスマートな答え方はあるのかといつも悩むところ。

なんてモヤってる先で女子助手さんがそんな気持ちはお構いなしにヤサイをいい感じで盛る盛る盛る。ヤサイも少なめで良かったかなと受け取る器。モヤシとキャベツのヤサイが山になり、分厚い豚が2枚鎮座すエモい二郎面がやってくる。

しばし見惚れてからレンゲを入れるとほどよく乳化した円やかに尖る豚の旨みが染み出る醤油のスープ。うん、おいしい。ちゃんと熱々なのも良い。しばらくレンゲが止まらない喉に沁みる豚のスープ。

ぐりっとヤサイをひっくり返して麺を出す。二郎言葉では天地かえし。顔を出すスープを吸い黄色がほんのり茶に染まるうねる平打ちで太い麺を啜ると少し柔らかめでデロンとしつつも噛み心地の良いオーションを感じる麺。おいしいなーとワシワシと頬張る。

麺の下に沈めた汁を吸いくったりとしながらもシャキシャキとした歯応えを残すヤサイを麺と一緒に頬張ったり、塊の豚に少しづつかぶり付いて、両隣から漂ってくるマシマシのニンニク臭に鼻腔をくすぐられながら箸を動かし腹に麺と肉を詰めて行く。

おいしく食べるが食べきらなくてはの焦燥に代わるいつもの二郎の終盤。「ヤサイスクナメブタイチマイ」で良かったなと思う歳を重ねた胃袋。それでも麺半分。ゆっくりとおいしいのまま完食できた。

どんぶりを高台に下げテーブルをよく拭いて「ごちそうさま」と伝えるとしっかりとこちらを見て「ありがとうございました」と伝えてくれる二人。

はじめて訪れた去年の秋に、後ろに並ぶ奥様と中坊な息子を連れて、いつも食べてる二郎を家族に食べさせたいと前のめりのお父さんをやさしく迎える様子にここはずっと応援すると決めました。

感じるのは二郎と言う食べ物と対峙するピリッとした空気で満ちるではなく緊張感をほぐす溢れる柔らかく穏やかな空気。

二郎に対する敬意と愛を忘れずに抑えきれない好奇心を持ち訪れるならやさしくたぶん大きな抱擁力で迎えてくれるはず。

店外にふわりと漏れる二郎臭を嗅ぎながら二郎に満ちて自転車を漕ぐ。

(は)

【ラーメン二郎一橋学園店】
  東京都小平市学園西町2丁目13−4  


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