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小川にある居酒屋「乾杯」で平日のお昼にだけ営業するスパイスカレー。〈SPICY CURRY OGAWA KANPAI_小平市小川西町〉

「おせちもいいけどカレーもね」なんてCMがあったけど、おせちも食べずに年始早々にスパイスカレーを食べに行った話。

ある日、小川駅の東側の線路沿いの道を自転車で走っていると、昔からそこにある居酒屋のシャッターに、小さな黄色い紙が張られているのが目に入った。

近づいて見ると、「SPICY CURRY OGAWA KANPAI」。営業が11:00~14:30で土日祝休みと書いてある。

居酒屋「乾杯」の場所。思ったのは、最近よくある居酒屋を借りた間借りカレー。

家に帰り「小川」「カンパイ」「カレー」と検索すると、お店のInstagramにたどり着く。その投稿に踊る色とりどりなカレーたちを見て心をむぎゅっと掴まれた。

Xによるとスパイス研究家の店主が作るスパイシーカレーなんて、今すぐ食べたいの気持ちが込みあげてくる。

ただ、平日のみ営業のハードルがとても高い。

いつかいつかと心に刻み迎えた新年早々の平日の休み。本日から営業しますの始動日に、満を持して向かう再開発から外れた昔ながらが残る路地。

はじめてシャッターが開いているのを見る居酒屋は、板張りの外壁にイカ釣り漁船のように電球がぶら下がり、所狭しと緑の鉢が並ぶ、いい感じの風貌。

とんと置かれている居酒屋「乾杯」の板書のメニューにも惹かれる。ベーコンエッグで焼酎を決めたいなんて。

半折りにめくられた生成りの暖簾をくぐり、少し開いた引き戸からこんにちはをすると、カウンターと小上りがぎゅっと詰まった思いのほか小さい店。

やさしそうなマスターと呼ぶのがしっくりとくる店主に迎えられる。カウンター席に腰かけると、2024年の最初の今週の週替わりカレーは極太海老カレーと柔らかな声でおすすめされた。

いつものはチキンとキーマとポーク。迷います、いつものように。2種盛りにするのはマスト。

一番人気と書かれているチキンにするのは確定として、もうひとつ、キーマかな、海老かな、でもやっぱり、まずポークを食べてみたいと自分に言い聞かせて、チキンとポークの2種盛りをお願いする。

静かな動作で調理を始める店主。

その厨房の壁に数枚のお母さんの写真。この方が居酒屋のほうか。女将って感じだね。その下にセルフカラオケのこと。1曲100円。ご自身で操作ください。店主は操作出来ませんなんてかわいい。

小上りの壁にはサザンとビートルズのLPのジャケットが整然と並ぶ。懐かしすぎる。「Nude Man」って。

これは誰の趣味だろう、こちらのマスターか、でもその割にはもうずっとここにあるかのように馴染んでいる。なんて思いを巡らせていたら、お待たせしましたと届くカレー。

濃い青の皿に黄色のご飯と赤茶のカレー。橙と緑と桃色の副菜と絶妙に黄身がとろける半熟の卵。見ているだけで幸せになるカレー。

チキンのほうからとスプーンを入れる。10種以上のスパイス配合の薬膳カレーらしい。

口に含むと、うん、辛い。なんだかコクのある辛み。そして深い。スパイスが絡み合う刺激のあるカレー。辛くてしびれてやさしくてじんわりと発汗する絶妙なスパイス具合。

やわらかくぷりぷりのチキンもしっかりとスパイスをまとい攻めてくる。ターメリックライスとチキンとカレーをスプーンに乗せた小宇宙をただ楽しみ額に汗をかく。

副菜の玉ねぎの酸味がこの辛しびの舌を癒してくれる。

うん、おいしい。ゆっくりと大切にスプーンを進める。名残惜しく最後のチキンを平らげて少し放心。

お皿を回してポークへ意識を向ける。赤ワインビネガーでマリネした柔らかな豚肉の酸味のあるカレー。インド西海岸のビンダルゥ風とメニューには。

スプーンにすくい頬張ると、ぶわっと口に広がる酸味。その海にほろほろの豚が泳いでいる。コクと深みが酸味の波に混じりじわりと追いかけてくるやさしい辛み。

スプーンを進めるごとにゆっくりと体温が上がってくるを感じるカレー。黒い粒は粒胡椒だろうか、噛み締めると爽やかに痺れる快感。チキンと同じようにスプーンに小宇宙を作りゆっくりと消化する。

硬めのターメリックライスの食感と交わるチキンとポークのそれぞれ異なるスパイス感に感服。旨みとかコクとかをバランスよくまとめるカレーの宇宙。その主役をバイプレーヤーのように包み込む副菜の存在感。シャキシャキとした紫キャベツの食感に虜。

舐めるようにお皿にスプーンを転がしてご馳走様。

お会計をしながら、マスターに、いつかはどこかでお店を出すなんて考えているんですかと尋ねたら、ここは母の店なんですと。この場所で35年続いているお母さんの居酒屋。

間借りではなくその息子さんのカレーでした。当分はここで営業していますって。なんだかいいな。お母さんの居酒屋にも訪れたくなりました。

ごちそうさまでした。

【SPICY CURRY OGAWA KANPAI】
   小平市小川西町4丁目34−10



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