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海へ進出する風力発電【持続可能エネルギー戦略05】

この記事では、国内外の風力発電の現状を読み解いた上で、日本が今後風力発電とどのように向き合っていくのかについて議論をします。

世界の風力発電事情

再生可能エネルギーは日本では太陽光発電のイメージが強いですが、世界全体で見ると風力発電と太陽光発電はほぼ同じくらいの容量が導入されています。世界における再生可能エネルギーの総容量は水力発電が最も多く、その次に風力発電が占めます(2019年時点)。全体量としては2537GW(ギガワット)となっており、2018年から7.4%ほど増加しました。ちなみに、火力発電所の出力は1GWくらいが標準的です。

世界の再生可能エネルギー容量

近年の再生可能エネルギーの容量拡大は目覚ましいもので、2019年では世界全体の容量のうち34.7%が再生可能エネルギーになったそうです(IRENA: Renewable Capacity Statistics 2020より)。ただし、再エネは設備利用率があまり良くない傾向にあるので、実際の発電量は少ないでしょうが。

風力発電について見てみると、2019年末での累積導入量は世界では634GW (=6.34億kW)になっており、中国が3分の1以上を占めます。中国はここ10年ほどで急拡大した経済とともに様々な再エネにも注力していて、風力発電の容量は2006年から100倍近くに増加しています。

世界の風力発電導入量_国別

日本国内の風力発電事情

一方の日本はというと、風力発電の建設はそれほど伸びてはいません。以前の記事でも紹介したように、太陽光発電の容量は世界第3位と順調です。しかし風力発電については上のグラフからもわかる通り、多くの国の後塵を拝しています。国内の電源構成を見ても、風力発電の発電量は1%にも届いていません

日本の電源構成2018

業界団体である日本風力発電協会による今後の見込みを見てみましょう。2020年代後半から洋上風力発電も導入し始め、2050年には7500万kW (=75GW)が日本国内に導入される見込みとなっています。太陽光発電が2050年に200GWの見込みを立てていることを踏まえると、風力発電はその4割弱を目指していることになります

グラフからも分かる通り、これまで日本国内では陸上での風力発電がほとんどでした。海上に建設された風力発電はほとんどありません。しかし、技術発達や法整備が進んだことから、今後は洋上風力発電の建設が加速することが見込まれています。

JWPA_風力発電導入量ロードマップ

国内風力発電の課題

諸外国に比べて、日本国内ではなぜ風力発電がなぜこれほどまでも普及していないのでしょうか。陸上風力発電について、日本固有の代表的な原因として指摘されているのが、数年間かかる環境アセスメントがあります。

太陽光発電と違って、風車1基あたりのサイズや発電量が大きい風力発電はその地域の環境に大きな影響を与えます。特に、鳥類・景観・騒音に関する影響が代表的です。これらの問題は他の国でもあることですが、日本国内の環境アセスメントの手続きは3年以上かかると言われ、企業の参入障壁の一つになっています。

実際に、再エネとして政府から認定された風力発電は2012年〜2019年3月で790万kWありますが、実際に導入されたのは110万kWしかありません。また、風力発電の事業は騒音や景観問題について地元自治体との調整が難しく、従来の計画を変更することもよくあるようです。

他にも、台風や突風などの自然災害が頻発する日本では、風車の落下事故が頻繁に発生しており、安全性対策も大きな課題の一つです。

日本の活路 〜浮体式洋上風力発電〜

日本の風力発電が増えない理由としてもう一つ、洋上風力発電が利用しにくい地理環境にあった、という点があります。洋上風力発電には、着床式と浮体式の2種類があります。

洋上風力発電の種類

諸外国で普及しているのは基本的には着床式洋上風力発電です。日本の海は世界有数に広いですが、陸の近くでも水深がかなり深いエリアがほとんどを占めています。浮体式風力発電は着床式に比べ研究開発が進んでおらず、これまでほとんど利用されていませんでした。また、海を利用するための法整備も整っていませんでした。そのため日本では、陸上・洋上ともに風力発電所が建設しにくい環境にあり、諸外国に比べて導入が遅れてしまったという経緯になります。

2018年11月に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(再エネ海域利用法)が成立したことから法環境が整い、ようやく日本でも洋上風力発電の実施が可能な環境ができてきました。この法律成立後には、ヨーロッパのエネルギー会社も日本市場に参入し始めました。そして、国内初の商用洋上風力発電事業として、秋田県沖における着床式洋上風力発電の建設が3月より開始されました。浮体式洋上風力発電は、福島県沖や福岡県沖で実証実験をするなど、研究開発が進んでいます。今後数年以内には、商用の浮体式発電所が建設されることでしょう。

秋田港・能代港の洋上風力発電

洋上風力発電については以前にも記事で紹介したので、そちらもご覧ください。

おわりに

日本における風力発電はまだまだ課題が多いですが、法整備が進んでいることから今後は拡大していくことが見込まれます。環境アセスメントの期間の縮小を政府は目指しているので、その点でも導入加速に助けとなるでしょう。

国土の狭い日本にとっては、洋上風力発電は再生可能エネルギーを拡大するための切り札のような存在だと思っています。海洋環境への影響を最小限に抑えつつ、発電による二酸化炭素を一刻も早く減らすためにも、導入を急いでほしいと思います。

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