47.沢水困(たくすいこん)~堤防の決壊①

六十四卦の四十七番目、沢水困の卦です。
爻辞はこちらです。
https://note.com/northmirise/n/n91d09f483b44

47沢水困

1.序卦伝

升(のぼ)り已(や)まざれば必ず困(くるし)む。故に之を受くるに困を以てす。

昇り進んで行けば行くほど(地風升)、必ずどこかで大きな困難にぶち当たって苦しむことになります。時には止まること、撤退することを知らなければ、どこかで無理が生じるのです。

よって、地風升の後ろには、沢水困の卦が来るのです。

2.雑卦伝

困は相遭ふなり。

相遭うとは、陰と陽とが思いも寄らず遭うことです。陰とは兌卦であり、陽とは坎卦であります。坎卦の中にある陽の君子が、弁舌巧みにして兌卦を悦ばせる小人のために事が運ばずして、行き詰まっているのです。

3.卦辞

困は、亨る。貞し。大人は吉。咎无し。言ふ有れども信ぜられず。

沢水困の「困」は、読んで字の如く、行き詰って困窮しているのです。この卦の前には、地風升があります。地風升こそが、困窮の原因であると考えてよろしいでしょう。

すなわち、昇り進むことが窮まったのです。これは序卦伝にある通りです。昇り進むこと窮まれば、必ずどこかで困窮するのです。

これは四難卦の一つでありますが、うち水雷屯と沢水困は、割と困窮の原因がはっきりと分かるものです。水雷屯は産みの苦しみであり、沢水困は昇り進むこと窮まった苦しみです。

他の二つのうち、水山蹇も一つの大きな困窮でありますから、そこから元を辿っていけば必然的に原因が何であるかは理解し得るでしょう。

残る一つ、坎為水は、もう運命だと割り切って粛々と耐え忍ぶしかありません。そうすればどこかで好転の兆しは見えてくるものです。

沢水困は、上が兌卦の沢であり、下が坎卦の水です。沢の底が破れて、或いは堤防が決壊して、水が溢れ出てしまったのです。それほどまでに、大量の水を蓄え過ぎてしまったのです。

沢の水が涸れ果ててしまったのです。兌卦は悦びの卦でありますが、ここまで来てしまうとカラ笑いしか出てきません。

三本の陽爻は、いずれも陰爻に挟まれています。九二は初六と六三に、九四と九五は六三と上六に、それぞれ挟まれて身動きが取れずに困窮しているのです。

そして挟んでいる側の陰爻もまた、賢人君子を挟み込んで世の中を困窮させることによって、自らもまた困窮するのです。この構図は爻辞に表れております。

この困窮は、最終的には乗り越えられます。困窮の原因ははっきりと分かっているからであり、対処する道は明確に見えているからです。

大人は吉、とあります。これは天に試されているのです。昇り進むことが窮まってはいるのですが、この局面を乗り越えて、更なる高みへと昇り進むべき器量を有しているかどうか、或いはこれを乗り越えることによって一回り成長し、器量を高めることができるかどうか、試されているのです。

賢人君子は、皆このような困窮を乗り越えてきたのです。無理をしてきたのです。時には身の丈を超えた無理をしなければ、賢人君子の域に達することはできないのです。

言ふ有れども信ぜられず。このような時には、口数を多くしてはなりません。周囲の人々はあなたの頑張り具合をしっかりと観察しています。安易に助けを求めようと泣き叫んだり、うろたえたりしてはなりません。無言で粛々と対処していくのです。周囲の人々は、そのような態度をみて、自然と手を差し伸べるのです。

九二と九五、これらの中位は応じておりません。最終的には団結して乗り切るべきではありますが、少々時間がかかるのです。共に陰爻に挟まれて身動きが取れない状況にあるのです。少しずつ状況を改善していくことによって、双方の距離感は徐々に狭まり、やがては一致協力することが可能となるのです。

初爻変は、兌為沢です。あくまでも悦びの徳を忘れてはなりません。

二爻変は、沢地萃です。誠意をもって行動すれば、やがて協力者が徐々に表れてくるのです。

三爻変は、沢風大過です。重荷を背負っておりますが、背負ったまま乗り越えるべき試練です。

四爻変は、坎為水です。試練そしてまた試練です。試されているのです。

五爻変は、雷水解です。この卦の成就の道です。

上爻変は、天水訟です。ここまで窮まり過ぎることは不要です。

綜卦は、水風井です。困窮の中にあって不変なるものは何でしょうか。

易位生卦は、水沢節です。適切に動くことによって、穴は塞がります。

裏卦は、山火賁です。虚飾ではなく、内実が試される時です。

4.彖伝

彖に曰く、困は、剛掩(おお)はるるなり。険にして以て説ぶ。困すれども其の亨る所を失はざるは、其れ唯だ君子か。貞、大人は吉とは、剛中なるを以てなり。言ふ有れども信ぜられずとは、口を尚べば乃ち窮するなり。

困すれども其の亨る所を失はざるは、其れ唯だ君子か。この一文に、困を乗り越えるべき心得が凝縮されています。いかに困窮しようとも、その志を貫き通して決するのです。それを成し得るのは君子を置いて他にはないのです。

5.象伝

象に曰く、澤に水无きは困なり。君子以て命を致し志を遂ぐ。

沢が決壊して水が溢れてしまい、沢の中の水が無くなってしまった形が沢水困です。

君子はこの卦の形をみて、困窮の時にあっては、己の身を投げ出して、志すところを何としても成し遂げようと心掛けるのです。自ら守るべきところの道は、自らの生命よりも重いものなのです。

6.繋辞下伝

繋辞下伝の第七章より抜粋します。

困は徳の弁なり。

困の卦は、あらゆる道徳を弁別するものです。困窮している場合に処する道、得意の絶頂にあって慢心している場合に処する道、そのようなイレギュラーな時であればこそ、現れ出でる徳を弁別することによって、その人の器量を察することができるのです。

困は窮まりて通ず。

困の卦は、どれほど困窮していようとも、めげずに頑張ることによって、これが窮まり塞がることはなく、最後には道が通ずるのです。

困以て怨(えん)を寡(すくな)くす。

困の道は、困窮する場合において正しい道を処することで、天の恵みを得て自らが天を怨み人を陥れることはないので、最後に人から恨まれたり咎まれたりすることはないのです。

自己の内的探求を通じて、その成果を少しずつ発信することにより世界の調和に貢献したいと思っております。応援よろしくお願いいたします。