14.火天大有(かてんたいゆう)~大いなる所有①

六十四卦の十四番目、火天大有の卦です。
爻辞はこちらです。
https://note.com/northmirise/n/n0b90601241d0

14火天大有

1.序卦伝

人と同じき者は、物必ず帰す。故に之を受くるに大有を以てす。

天火同人の卦において、多くの人が野に集まり私心を捨てて一致協力するとき、あらゆるものが帰服してこれに従うものです。その「もの」とは、人ばかりではなく、物資もあり得ます。物心ともに豊かさを得られるのです。

大有とは、大きく有することであり、豊かなる所有を意味するものです。

2.雑卦伝

大有は衆(おお)きなり。

九五の中徳が、天より更に上の中天に太陽が輝くが如くであり、大衆はこれに心服して統一されるのです。

3.卦辞

大有は、元に亨る。

火天大有の卦辞は、いたってシンプルです。「大有の卦は、大いに願い事が叶う」ただそれだけです。これほどシンプルであるからこそ、そのメッセージ性はより一層強固なものとなります。

五陽一陰の卦、前の天火同人は六二でしたが、この大有の卦は、六五です。君主の位置に陰爻があります。陰なる君主の元に、全ての陽が従う形です。陰は柔順にして柔弱なるものです。強烈なリーダーシップを発揮する存在ではありません。しかしながら、その持ち前の陰徳が中を得ているのです。

離の卦は文明の卦であり、ここでは高く天上にあって万物をあまねく照らす位置にあります。離の卦は、陽爻が外側にあって、陰爻がその両側の陰爻に挟まれている形です。つまり中身が空洞なのです。坎の卦と反対です。坎の卦は、外側が脆くて内側が充実している形ですが、離の卦は内側が空洞なのです。空洞であるということは、虚心であるということです。私心なき心であり、充実したるものを入れる余地があるということです。この虚心なる状態が六五の位置にあるのです。

六五の君主は、自ら積極的に何かをする存在ではありません。ただ己の心を虚しくして、上下の利発なる陽の賢人たちの助力を得るのです。そして陽の賢人たちは、皆六五の虚心さに心服して、誠意を尽くして役割を全うするのです。よって君主自ら成し遂げるよりも、より一層多くのことが成し遂げられるのです。

これは、水地比とは正反対の在り方です。大有の卦を裏返すと水地比になります。水地比は、陽剛なる君主が陰の集団を従えるものでありました。卦辞は「吉にして咎无し」です。大有の卦は、陰柔なる君主が陽剛なる賢人たちに従うものであり、卦辞は「大有元亨」です。大有の卦の方が、卦辞において優っているのです。五爻目の在り方だけをみれば比の卦が優っているのですが、卦全体をみれば大有の卦が優っているのです。

だからといって、君主が全ての局面において陰爻であれば良いというものでは勿論ありません。陰には陰の良さがあり、陽には陽の良さがあるのです。この大有の卦のような、上下の家臣が揃って陽剛であるときには、むしろリーダーは陰なる力を発揮すべきなのです。

離の卦は太陽です。天の上、南中点にあります。組織としては円熟期です。蒔いた種が実をつけたので、それを刈り取って財産とするのです。大きく有するべき時期なのです。豊かさを享受するのです。かような時期において、リーダーが陽剛である必要はないのです。

4.彖伝

彖に曰く、大有は、柔、尊位を得、大中にして、上下、之に応ずるを、大有と曰ふ。其の徳は剛健にして文明、天に応じて時に行なふ。是を以て元に亨る。

大有の卦は、陰爻が聖なる五爻目の位置にあります。本来は陽位であるべきですが、中庸の徳がそれに優っているのです。天火同人は六二であり、九五と応じて宜しきを得ておりました。天沢履は六三であり、危い三爻目にて猛々しい乾の卦を窺い従っておりました。風天小畜は六四であり、乾の勢いに押されながらも、その勢いを辛うじて抑えておりました。そしてこの大有の卦は、六五という最強の位置にあって虚しくしており、上下の猛々しい陽なる賢人たちは皆これに従うのです。

離の卦の徳は文明であり、乾の卦の徳は剛健です。すなわち卦全体としては、健やかであって知恵が明らかです。「天に応じて」とは、六五が九二に応じていることをいいます。「時に行う」とは、時の宜しきに従って行動することです。のんびりし過ぎてもいけないし、焦り過ぎてもいけないのです。心を虚しくして私心なく、明晰に状況を観察することによって、微かな兆しを見、そこから剛強にして健やか、片時も疲れず休むことなく活動するのです。だから大いに願い事は叶うのです。

5.象伝

象に曰く、火、天上に在るは大有なり。君子以て悪を遏(とど)め善を揚げ、天の休命に順ふ。

太陽が天の上にあって、四方をあまねく照らしている形が、大有の卦です。

君子は、この形をみて、善悪を明らかに弁別して、悪には刑罰をもってこれを処し、善には賞与や官職をもってこれを挙げ用いて、そうして天の善にして美しい命令に順応するのです。天の本性は絶対的な善であり、悪でありようがないのです。天の命令に順応するということは、すなわち悪を禁絶して善を称揚することなのです。

6.生卦

火天大有の生卦は、天火同人です。


7.綜卦

火天大有の綜卦は、同じく天火同人です。


8.裏卦

火天大有の裏卦は、水地比です。

心虚しい君主に付き従う賢人たちの構図が、一転して剛強なる君主に付き従う柔弱なる民の構図になります。どちらも表裏一体です。どちらが正しくてどちらが間違っているというものではありません。

自己の内的探求を通じて、その成果を少しずつ発信することにより世界の調和に貢献したいと思っております。応援よろしくお願いいたします。