13.天火同人(てんかどうじん)~同好の士を求む①

六十四卦の十三番目、天火同人の卦です。
爻辞はこちらです。
https://note.com/northmirise/n/n9e44ec627d16

13天火同人

1.序卦伝

物は以て否(ふさ)がるに終る可からず。故に之を受くるに同人を以てす。

前の卦である天地否は、陰陽の気が交わることなく塞がった状態を意味しておりましたが、世の中はいつまでも塞がっているわけではありません。乱が極まれば治を生じます。

乱が収束して、そこから治の状態へと持っていくためには、自分一人の力だけでは限界があります。多くの人が集まって一致協力する必要があります。同人とは、多くの人が心を一つにして協力することを言います。

2.雑卦伝

同人は親しむなり。

太陽の位置が天の高きところではなく、比較的低い位置にあります。すなわち九五に信任された六二の賢人を親しんで皆が集まるのです。

3.卦辞

人に同じくするに野(や)に于(おい)てす。亨る。大川を渉るに利し。君子の貞に利し。

天火同人は、五陽一陰の卦です。陰爻が下から上がるにつれて、天風姤、天火同人、天沢履、風天小畜、火天大有、沢天夬となります。天沢履と風天小畜の二つは、既に登場しました。それぞれ陰爻が三爻目と四爻目という微妙な位置にあり、手放しで喜べる内容の卦とは言えず、天沢履は礼節をもって慎重な行動が求められ、風天小畜は微力をもって陽の勢いを堰き止める努力が求められるものでした。

天火同人は、陰爻が二爻目、すなわち内卦の中を得ております。そして六二と九五が応じております。上下の意志が噛み合っておりますので、そのバランスの良さは卦の全体に波及し、全ての陽爻が六二を求めて集い、心を合わせて大きな仕事を成そうとするのです。

外卦は乾の卦、内卦は離の卦です。天が上に在り、天の下に火すなわち太陽がある形です。これは正しい位置関係です。また、天のエネルギーは上方に向かい、火のエネルギーも同じく上方に向かうものです。上下の目線が同じくしているのです。

乾の性質は剛強であり、健やかであり、猛々しいものです。離の性質は明らかであり、明晰であり、輝かしいものです。これを一人の人間の心としてみれば、様々な欲望や感情が渦巻く中、離の明晰さをもって一つの意思感情に統一され、その明晰さが乾の健やかさとなって表出されるのです。

六二そして九五の在り方、すなわち中庸の徳が全ての命運を握ります。ここでは具体的に、二つの徳が要求されます。一つ目は、公平であること、二つ目は、私心のないこと。公平であればこそ、かつ私心なければこそ、境界を隔てることなく多くの人が集うのです。自分のエゴイズムで依怙贔屓してはならず、好悪の感情をむき出しにしてはならず、正しくなければならないのです。そのためには更に具体的にどうすればいいのかというと、「人に同じくするに野に于てす」るのです。家を飛び出して、城を飛び出すのです。城の外側を郭といい、郭の外側を郊といい、郊の外側を野といいます。野は広々としており、我が家から遠く離れております。野において、集う人を募るのです。それは公平なことであり、私心なきことです。

そのようにして六二と九五が中徳を発揮し、それに同調した仲間が集って協同一致することによって、大いなる仕事を成し遂げようとする勢いが生じるのです。「大川を渉るに利し」、思い切った冒険をしてもよろしいのです。離の卦の裏側には険阻なる乾の卦が潜んでおりますが、大丈夫なのです。渡ってよろしいのです。

六二と九五の中正なる徳が、この天火同人の成功をもたらすのです。それが「君子の貞に利し」なのです。これは条件付きであり、二人の君子が正しい志をもって、これを堅固に持続することによってのみ、利を得られるということなのです。

4.彖伝

彖に曰く、同人は、柔、位を得、中を得て乾に応ずるを、同人と曰ふ。同人に曰く、人に同じくするに野に于てす、亨る、大川を渉るに利しとは、乾の行(おこない)なり。文明にして以て健、中正にして応ず、君子の正しきなり。唯だ君子のみ能く天下の志を通ずと為す。

五陽一陰のうち一陰が、六二すなわち二爻目という正中の位を得ており、五陽一陰の六卦のなかでも最強クラスのまとまりの良さを発揮しているのが天火同人の卦です。これもひとえに一本の陰が、陰爻として最も理想的な六二に収まっていることに尽きます。かつ、その六二は、聖なる君主たる九五と応じておりますので、そのバランスの良さは卦全体に波及しているのです。全ての陽爻が集まって、仕事を為そうと一つにまとまるのです。

それが「同人は、柔、位を得、中を得て乾に応ずるを、同人と曰ふ」ということになるのですが、その後の一文は更に「同人に曰く」と続き、少々くどいです。これは誤って伝えられたものであり、後者の「同人曰」を削除すべきである、というのが程伊川の説です。その通りだとは思いますし、削ろうがそのままにしておこうが、文章の意味は特に変わりません。

なお、六二は正中位を得ているとはいえ、あくまでも柔弱なる陰爻です。陰爻は弱いものであり、単独で何かを成すことは非常に難しいです。よって、応じている九五がその充実したる能力を存分に発揮することになるのです。六二は縁の下の存在として、九五の活躍を補佐するのです。

卦の位置関係として、内卦は我が家であり、外卦は家の外です。よって外卦の乾の卦が野原を意味するものであり、野原の中央に位置する九五が中心となって人を集うのです。それが「人に同じくするに野に于てす、亨る、大川を渉るに利しとは、乾の行なり」です。六二の働きは目立たないものであり、まるで何もしていないように見えるかもしれませんが、そうではないのです。六二の縁の下の働きがあってこそ、九五の猛々しさが発揮されるのです。

離の卦は太陽であり、地上を明るく照らす存在であり、文明の徳を持ちます。乾の卦は天であり、健やかにして片時も休むことなく、疲れることなく活動し続けるものです。この二つの徳が中正をもって応じているのです。これは君子として正しい在り方です。天火同人は、このような君子の徳があってこそ成し遂げることができるのです。

5.象伝

象に曰く、天と火とは同人なり。君子以て族を類し物を弁ず。

天の下に火がある形が、天火同人です。天は高く天にあり、火は上に向かって進むものであり、共に志が一致している形です。

しかし、志が一致するとはいえ、異なる人間同士が全てのことにおいて完全に一致するわけにはいきません。異同は必ず生じるのです。人の数が多くなればなるほど、その異同はますます目立ち始めます。

よって君子は、この天火同人の卦をみて、慢心してはいけないのです。何を成すべきかというと、「族を類し物を弁ず」、すなわち同類異類のカテゴリーに分けることによって、同じものは同じものとして、異なるものは異なるものとして、よく弁別するのです。

同人とはいっても、全てが同じではないのです。同じではない部分から争いの火種が生じる可能性もあるのです。同じところは同じく、異なるところは異なることを認めて、そこから乱れの種を減らし、秩序をもたらすのです。

6.生卦

天火同人の生卦は、火天大有です。

同人の勢いが盛んになり、大いに発展するのです。

7.綜卦

天火同人の綜卦は、同じく火天大有です。

こちら側からみた九五は、あちら側からみれば九二であり、こちら側からみた六二は、あちら側からみれば九二なのです。

8.裏卦

天火同人の裏卦は、地水師です。

柔弱なる六二が剛強なる九五となり、他の陽爻が全て陰爻となります。九五の猛々しい君主は六五の柔弱な君主となります。これもまた、一つの統率のとれた在り方なのです。

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