15.地山謙(ちざんけん)~謙譲の美徳①

六十四卦の十五番目、地山謙の卦です。
爻辞はこちらです。
https://note.com/northmirise/n/n5ce415e33dcd

15地山謙

1.序卦伝

有(たも)つこと大なる者は、以て盈つ可からず。故に之を受くるに謙を以てす。

前の火天大有の卦は、勢い盛んで富むこと、大きく有することを意味するもの、天の上に太陽があり、頭上にて四方をあまねく照らすものでした。

これは乾為天でいうところの「飛龍」であって、そこで有頂天になってしまうと、あるいは所有が満ち溢れるところまでいってしまうと、「亢竜」となって堕ちるのみです。そうなることは運命として受け入れるほかはないのかもしれませんが、そこで「謙遜」の徳の必要性をここでは説いているのです。自惚れることなく、ひたすらへり下ることを説くのです。

2.雑卦伝

謙は軽くするなり。

大きくて重い山が、地の下に隠れております。これは謙虚にして己の身を軽く小さくしているのです。

3.卦辞

謙は亨る。君子終(おわり)有り。

外卦が坤の卦、内卦が艮の卦です。地の下に山があります。普通は逆で、地の上に山があるものです。つまり、山が地に対してへり下っているのです。山は地上において大いなる存在でありますが、この山は自分の力量を誇らず、あるいは誇る以前に自分に力量があるとは全く自覚せず、自分はまだまだ未熟であると反省し、ひたすら謙遜するのです。このような人物こそが、まさしく偉大な人物であり、君子たるべきものです。

艮の徳は止まることであり、坤の徳は柔順です。止まるべきところに止まっており、そして人と争うことなく柔順なのです。人は誰でも最初はへり下るのですが、その態度を最後まで貫き通すのは難しいものです。この卦の徳は、初心を忘れずして柔順な態度に止まり続けるのです。

この卦は一陰五陽の卦です。既に登場した地水師は九二であり、六五の君主の信任を受けた将軍が柔順なる軍隊を率いるものでした。水地比は九五であり、猛々しい君主のもとに柔順なる民が慕い集うものでした。この地山謙の卦は、九三です。三爻目は、内卦から外卦へと飛び移る時にあって、まことに危い位置です。決して慢心してはならない位置です。蛮勇をもって飛び越えようとしてはならず、あくまでも謙虚さをもって処しなければならないのです。

互卦の内卦は坎の卦です。油断すると陥ってしまうのです。そして互卦の外卦は震の卦です。震の卦は五行でいうところの「木」であり、川の上に浮かぶ小舟です。形だけではなく、心からの謙虚さをもって外卦の坤の卦に向かって渡るべきなのです。

そのようにして徹頭徹尾、謙遜の美徳を保ち続けるときは、必ず願い事は通り、かつ有終の美を飾ることができるのです。この「有終の美」こそが重要なのです。いっときの謙虚さをもって一時的に物事が上手くいって、そこで慢心して中途で終わらせてはいけないのです。

4.彖辞

彖に曰く、謙は亨る。天道は下済(かせい)して光明なり。地道は卑(ひく)くして上行す。天道は盈(えい)を虧(か)きて謙に益(ま)し、地道は盈を変じて謙に流れ、鬼神は盈を害して謙に福(さいわい)し、人道は盈を悪(にく)みて謙を好む。謙は尊くして光り、卑くして踰(こ)ゆ可からず。君子の終なり。

天の道は、その気が下に下って地と交わり、万物を生成化育するものです。地の道は、天の下にあって身を屈めているものですが、その気は上に上って天の気と交わろうとするものです。この卦は、もとは坤為地の卦であり、そこに一筋の天の道、すなわち九三が明るい光を伴って収まり、へりくだる徳となって陰陽の気が交わるものです。地天泰と天地否の両卦にあるような、陰陽のベクトルが一触即発するような表現はこの辞にはありません。

天の道は、満ち溢れるものを削り取って、これをへりくだって足りないものに補い増します。月は満ちれば欠け、欠ければ満ちます。春夏秋冬の四時も、陰が満ちれば陽に転じ、陽が満ちれば陰に転じます。

地の道は、満ち溢れるものを変化させて、これをへりくだって足りないものに注ぎ込みます。高い山は段々と削り取られていき、深い谷は段々と埋まっていきます。あるいは山が高くなり過ぎると崩れ落ち、深い谷は雨水が流れ込んで悠々たる大河となります。

鬼神の働きは、満ち足りているものには害をなし、へりくだっているものには福を与えます。同じく人の道は、満ち足りて慢心しているものを憎み、へりくだっているものを好みます。

才能や道徳が貴くしてへり下るということは、光り輝くがごときものであり、その見分の貴賤如何に関わらず、何人もこれを踏み越えることはできないものです。だからこそ、地山謙の徳を全うするものは、有終の美を飾ることができるのです。

5.象辞

象に曰く、地中に山有るは謙なり。君子以て多きを裒(へら)し寡(すくな)きを益し、物を稱(はか)り施しを平かにす。

地の下に山がある形が、地山謙です。山が地の下にあるのではなく、地の下に山があるのです。どちらも結局は同じことなのですが、へりくだったものの内面に気高いものを包容している、という表現が適切なのであって、これが逆では意味が通じないのです。

君子は、この卦の形をみて、多過ぎるものを減らし、少な過ぎるものを増すことによって、物事を平均化して公平にするのです。

6.繋辞下伝

謙は徳の柄(え)なり。

謙の卦は、山が地に隠れている形であり、すなわち大いなる徳の働きによって自然と深く謙虚さが働くものです。つまりあらゆる道徳を自在に使いこなして用に立てる柄のようなものです。

謙は尊くして光あり。

謙の徳はまことに貴いものであり、自然に尊敬を受けて大いなる光を放ち、成すべき事業を成就するものです。

謙以て礼を制し

謙の道は、礼儀の道を適度に切り盛りして規律を完成させるものです。

7.生卦

地山謙の生卦は、山地剥です。


8.綜卦

地山謙の綜卦は、雷地豫です。


9.裏卦

地山謙の裏卦は、天沢履です。

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