38.火沢睽(かたくけい)~内部の確執①

六十四卦の三十八番目、火沢睽の卦です。
爻辞はこちらです。
https://note.com/northmirise/n/n98203bcb4212

38火沢睽

1.序卦伝

家道窮すれば、必ず乖(そむ)く。故に之を受くるに睽を以てす。睽とは乖くなり。

外に出て(火地晋)、そして傷付いて敗れて(地火明夷)、傷を負って家に戻れば(風火家人)、その災いは家の中に及びます。

乖とは、羊の角が左右に分かれていることを意味する会意文字です。家中に災いが及んで困窮することによって、親子兄弟が感情的になって反目してしまうのです。

2.雑卦伝

暌は外なり。

風火家人は「内なり」でありましたが、火沢睽は「外なり」です。

内なりとは親密にして和合していることですが、外なりとは疎遠にして不和合であることです。二人の関係性、向かうところが正反対であり、各々が外に向かって離れてしまっているのです。

3.卦辞

睽は、小事は吉。

暌とは、目をそむくこと、睨み合うこと、反目することを意味します。

風火家人の卦を上下引っくり返すと、火沢睽の形になります。家内の和合から一転して、不和合を意味する卦となります。

風火家人は、外卦の長女と内卦の次女がいずれも正位を得ておりました。しかし火沢睽は、外卦の次女と内卦の三女がいずれも不正位であり、よろしくありません。

しかも少女は兌卦であり、家の中で甘やかされて悦んでいるのです。これでは外に出ている次女の気分が良いはずはありません。

風火家人は、巽卦の風と離卦の火が助け合っておりました。風は空気を送って火を強くせしめ、火は空気を動かして風を起こしておりました。しかし火沢睽は、外卦の火は上に昇り、内卦の沢水は下に降り、お互いに向き合っておらず、かつ相克する関係にあるのです。

風火家人は、上爻を除く五つの爻がいずれも正位を得ておりました。しかし火沢睽は、初爻を除く五つの爻がいずれも不正位です。

全ての面において、風火家人と火沢睽は真逆の意味を有しているのです。小さく言えば、家の中が不和合であり、大きく言えば、国家全体が不和合であり、一個人として言えば、心の中が不和合であるのです。

この卦を得ている場合、この卦の状態である場合は、小さなことを行う分には吉であり、大きなことを行う分には凶です。大きなことを行うためには風火家人の如く一家団結しなければなりません。しかし小さなことであれば、ひとまずは自分個人の努力次第で何とかなるからです。

まずは自分個人の努力で状況を改善し、少しずつ賛同者を増やしていくことによって、風火家人の状態に近づけることが必要です。大きなことを行うのは、その後にすべきでしょう。

初爻変は、火水未済です。反目の度合いが一層高まり成就しません。

二爻変は、火雷噬嗑です。反目の原因を特定して突き破れば吉です。

三爻変は、火天大有です。双方が向き合って和合します。

四爻変は、山沢損です。損して得取れば活路が見えます。

五爻変は、天沢履です。目の前の危険を慎重に乗り越えれば吉です。

上爻変は、雷沢帰妹です。外にある次女が家に戻って和合するか、それともボタンの掛け違いが一層際立って反目が続くのか、状況次第です。

易位生卦は、沢火革です。創造的破壊、革命の卦です。私は個人的にはこの卦が大好きなのですが、上の上爻変と同じく、これをどう判断するかは状況次第です。

裏卦は、水山蹇です。八方塞がり状態です。

これらを総合するに、極めて危うい状況に立たされていることはまず間違いないのですが、天沢履の慎重さをもって事を運び、山沢損の奉仕精神をもって我を通すことを抑え、かつ火雷噬嗑の意気をもって当たれば、乗り切ることは出来るでしょう。命まで取られるほどの卦ではありません。

互卦には、離卦と坎卦があります。この卦が困難であるのは、坎卦が潜んでいるが故です。しかし離卦と坎卦を合わせると、水火既済となります。これは初爻変の真逆であり、成就なのです。

4.彖伝

彖に曰く、睽は、火動きて上り、沢動きて下る。二女同じく居り、其の志、行(おこない)を同じくせず。説びて明に麗き、柔進みて上り行き、中を得て剛に応ず。是を以て小事は吉なり。天地睽(そむ)きて其の事同じきなり。男女睽きて其の志通ずるなり。万物睽(そむ)きて其の事(こと)類するなり。睽の時、用(よう)大(おおい)なるかな。

上述の通り、この卦には二人の女がいます。片方は火の性質であり、もう片方は沢の性質です。

火は高く昇り、沢は下に降りていきます。これを反目、いがみ合いとする見方も確かにあるのですが、別の面からみれば良いことである、と彖伝は言っているのです。

つまり、二人の志が同じであったとしても、その根本的な性質が異なるのですから、その志を達成するためのプロセスであったり、用いるべき手段は当然異なるでしょう、ということです。

天地もまた然りであって、天の行いと、地の行いはそれぞれ異なりますが、これを相背き合う存在として解釈する人は誰もいないでしょう。陽剛なる天そして陰柔なる地、これらの働きはそれぞれ異なるものであっても、志すところは同じであって、異なるからこそ偉大なる和合のはたらきを生じるのです。

これは男女においても同じことであり、男女はそれぞれ異なる性質を有しております。その得手不得手とするところも大きく異なります。だからこそ、男女が和合したときに得られる成果は極めて大いなるものになるのです。

この卦は、兌卦の悦び、そして離卦の明晰さを徳として有しております。離卦は「麗く」でもあります。結局のところは、悦んで麗くのです。離れ離れのままお終いにはならないのです。

柔進みて上り行き、とは、六五のことを指します。この卦は、中位が応じているのです。ですから四難卦の如く命取りになるような深刻さはないのであって、むしろ暌の時が上述の如く偉大なるものであることを、よく噛みしめる時であることを知るべきなのです。

5.象伝

象に曰く、上に火ありて下に沢あるは睽なり。君子以て同じくして異なり。

上にある火は高く昇ろうとして、下にある沢は下に降ろうとしている形が火沢睽の卦です。

君子はこの卦の形をみて、人々がその志を同じくするとしても、その向かうべき目標に向かうための手段であったり、発揮する能力であったり、時と場合に応じて際立つ長所や短所はそれぞれ異なるものである、ということをよく理解するのです。

火沢睽はあまりよろしくない意味を持つ卦ですが、そのようなことを遠回しに教えてくれるものとして考えれば、この卦は良き指導者でもあるのです。

6.繋辞下伝

繋辞下伝の第二章より抜粋します。

木に弦(つる)して弧(ゆみ)と為し、木を剡(けず)りて矢と為し、弧矢(こし)の利、以て天下を威(おど)す。蓋(けだ)し諸(これ)を睽に取る。

木の枝を曲げて、その反動を利用して両端に弦をかけて弓を作り、木の尖端を削って矢を作り、その弓矢をもって乱賊や外敵を討伐して、天下を感服せしめることが出来るようになりました。

これは恐らく、火沢睽の卦からヒントを得たのでしょう。

離卦と兌卦はそれぞれ行くべき方向が異なって反発し合うものですが、その作用が良い意味をもって応用されることによって、弓矢の理を得るのです。

自己の内的探求を通じて、その成果を少しずつ発信することにより世界の調和に貢献したいと思っております。応援よろしくお願いいたします。