17.沢雷随(たくらいずい)~人に付き従う①
六十四卦の十七番目、沢雷随の卦です。
爻辞はこちらです。
https://note.com/northmirise/n/n25a79c7ee705
1.序卦伝
豫(たのし)めば必ず随(したが)う有り。故に之を受くるに随を以てす。
前の雷地豫の卦は、春が来たりて地上から若芽が萌え、喜び楽しむ卦でした。自分が喜ぶときには、自分に従って来る者がいます。あるいは他に喜ぶ人がいれば、自分はそれに従います。
喜ぶこと、その喜びに付き従うこと、これらは一心同体なのです。
2.雑卦伝
随は故(こ)无きなり。
ここで言う「故」とは故旧、古くからの知人であり、そこから解釈を広げて古くからの持ち物、という意味になります。
随の卦は、目上の長男が目下の少女に従って悦ばせる卦であり、そのためには目上の側が既に持っている価値観や偏見、自尊心などを全て捨て去る必要があるのです。そのようにして初めて、心から人に随い、時に随い、環境に随うことが出来るのです。
3.卦辞
随は元に亨る、貞しきに利し。咎无し。
随とは、随(したが)うことです。人に随うことであり、あるいは人が自分に随うことでもあり、場合によっては物や事、時の成り行きに随うことでもあります。
兌の卦は少女であり、震の卦は長男です。この卦の形は、少女が上にあり、長男が下にあります。本来ならば身分の高いはずの長男が、へり下って少女の下にあり、付き従っているのです。そうすることによって、少女はこれを悦び(兌の性質は悦びです)、今度は少女が長男に付き従うようになるのです。
つまりこの卦の本意は、自分自身が従うことであって、他の人や物が自分に従うことは、それを受けての結果なのです。まずは自分の在り方が大事なのです。高い身分であって、道徳才能が優れているからこそ、まずは自らへり下って従う姿勢を見せるべきなのです。
この卦は、元々は天地否の形であった、と考えてみます。天地否は閉塞の卦です。陰陽の気が交わらず、何事も上手くいかず閉塞感が漂う状態です。この状態にあって、一番上の上九が、一番下の初爻に降りてきたのです。上九と初六が入れ替わったのです。まず行動を起こしたのは、上九です。上九がへり下って一番下に降りたのです。
上九がへり下ることで、まず内卦が震の卦となって、活動の力を得るのです。そうして外卦は兌の卦となり、震の卦の志を受け入れて、これを悦ぶのです。かくして閉塞感は打破されるのです。この卦は、天地否の閉塞感を解決する道の一つでもあるのです。
この卦の卦辞は、乾為天と同じく「元亨利貞」です。最大級のめでたい表現です。へり下って従う、ということに対して、よろしくない言葉が当てられるはずはありません。
しかし、何でもかんでも従えばよい、というものではありません。正しくなければ、利を得ることはできません。それが「貞しきに利し」です。
例えば、よろしくない者にへり下って従い、徒党を組んでしまっては、世のため人のためになりません。あるいは自身の私利私欲を第一として打算的に付き従うというのも、おかしな話です。あくまでも、正しい道でなければならず、その正しい道を堅く守り続けなければならないのです。そうすることによって、咎めを受けることはないのです。
4.彖辞
彖に曰く、随は剛来りて柔に下り、動きて説ぶは随なり。大いに亨り、貞しくして咎无し。而して天下、時に随ふ。時に随ふの義大(おおい)なるかな。
上に書いた通り、剛なる陽爻が下に降りてきて、柔なる陰に従っている形です。これを更に深く検討すると二通りの見方があります。
一つは、陽剛である震の卦が下にあり、、柔弱なる兌の卦が上にあって、陽剛が柔弱にへり下っている、ということです。もう一つは、剛なる初九が、柔なる六二にへり下っている、ということです。いずれにせよ、強きものが弱きものにへり下って従うことに変わりはありません。
下の震の卦はへり下って従い、動きます。上の兌の卦はそれを悦びます。これが沢雷随の「随う」徳です。ゆえに「元亨利貞」なのです。へり下って従うことで、天下の人望は集まり、そして物事を始めることができ(元)、その始めた物事は大いに伸び栄えて(亨)、その利するところを得(利)、正しく久しく安住することができるのです(貞)。それが正しい道に叶っているからこそ、咎めるべき過失はなく、天下の人々は皆これに従うのです。
これは、時の宜しきに従うことです。その意義は、まことに重大なることなのです。
5.象辞
象に曰く、澤の中に雷有るは随なり。君子以て晦(くら)きに嚮(むか)ひて入りて宴息(えんそく)す。
沢の中に雷が引っ込んでいる形が、沢雷随です。本来は逆であり、雷が沢の上で轟き鳴っているはずです。雷、ここでは震の卦の五行に沿って蕾と解釈してもよろしいでしょうが、とにかく地上に出る機会を窺っているのです。やみくもに出て轟くのではなく、時の宜しきに従うのです。
君子は、この卦をみて、日が暮れて暗くなろうとするときは、家の中で落ち着いて休息し、夜が明けて明るくなると、また外に出て仕事をし始めるのです。時の宜しきに従って出入りするのです。
6.繋辞下伝
繋辞下伝の第二章より抜粋します。
古代中国の神話の時代、三皇五帝が易の卦を使ってどのように社会を発展させていったのかを書いているのですが、もちろん実話ではなく作り話と考えるべきです。しかし易の卦の理解を深める手助けにはなります。
牛を服し馬に乗り、重きを引き遠きを致し、以て天下を利す。蓋(けだ)し諸(これ)を随に取る。
(伏犠・神農の両氏が亡くなって黄帝・堯・舜の各氏の時代となり、)牛を飼い慣らして馬に乗り、重いものを載せたり、あるいは車を曳かせたりして遠いところまで行かせるようにし、そうして天下の人々は大いなる利益を得るようになった。これは恐らく、沢雷随の卦に基づいて考案し工夫されたのであろう。
この一文に秘められた意味は、次のような感じです。牛馬が人に飼い慣らされて、悦んで動く。あるいは牛馬が下にあって、上にある人が喜ぶ。
互卦の外卦は巽の卦で、縄の象です。同じく互卦の内卦は艮の卦で、鼻または手です。これは人が縄をもって、下にある牛馬を使っている形です。
また、兌の卦はもともと乾の卦が変形したものであり、乾の卦は馬の象です。上六の陰は空洞であり、道が開けている象です。
震の卦はもともと坤の卦が変形したものであり、坤の卦は牛の象です。初九の陽は充実であり、重いものを載せたり曳いたりしていることを意味します。
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