パルメニデス以前の哲学者たち② タレス(前7~6世紀)

タレスは、イオニア地方のミレトスという都市で生まれ育った。
哲学は、アテナイではなく、この地において始まった。ここで紹介するパルメニデス以前の哲学者たちは、全てイオニア地方の人たちである。
イオニア地方とは、今で言うトルコの一部であり、エーゲ海に面した交通の要所で、当時最先端の文化水準であったバビロニアやエジプト等との交易が盛んであった。

そのような様々な民族が交流する港町において、各民族の内輪でしか通用しない神話(ミュートス)によらず、万民共通の原理(ロゴス)を探究する流れが生じたのは必然である。
そのような流れを背景として、タレスは人類史上初の哲学者と呼ばれる。

・・・と言うか、そう決め付けたのは後のアリストテレスであり、著作「形而上学」において「タレスは万物のアルケー(根源)を水と言い、万物は水から生まれて水に還ると言った」云々と記されているので、後の私たちも「ああそうなんだ、アリストテレスがそう仰るならば、タレスが初めての哲学者なんだな」と思い込んでしまうのである。
それはそれで構わないのであるが、しかし「ソクラテス以前哲学者段片集」という二人のドイツ人学者が作成した書籍において、百名近くの哲学者が年代順に紹介されているのだが、そこでタレスは一番目ではなく、11番目に紹介されている。
つまり何が言いたいかというと、アリストテレスの目線から見ればタレスが一番目だったのかもしれないが、それが唯一の真実ではない、他にも様々な目線が有り得る、ということである。

また「ギリシャ哲学者列伝」という別の人が書いた書籍においては、哲学とは自然学(今で言う自然科学に近い)、倫理学、論理学の三分野から成るものとされ、うち自然学の祖はタレスである、とした。

タレスを自然学の祖とする所以は、要するに万物の存在を神々の仕業に依らずして、アルケーをもって語ろうとした、ということである。タレスはアルケーを水であるとして、彼の後を追って少なからぬ哲学者たちがアルケーの正体を追い、そして約200年後のデモクリトスに至って「原子」という、21世紀の私たちの感覚と寸分違わぬアルケーに辿り着いたのである。

このタレス、そして彼に続くアナクシマンドロスとアナクシメネスを合わせて「ミレトス学派」と言う。
次回はアナクシマンドロスについて紹介したい。

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