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これは追悼展ではありません  「遠別少年」装丁展

2022年2月11日よりGallery装丁夜話「遠別少年」装丁展が始まります。

概要を簡単に説明すると——
装丁家・坂川栄治氏(1952〜2020)の自伝的小説『遠別少年』を新装版として甦らせ、そのカバーを10人のブックデザイナーが作り展示販売します。
ということになります。

もう少し掘り下げると——
『遠別少年』は2003年に刊行され(リトル・ドッグ・プレス)、2007年に文庫化されました(光文社文庫)。
単行本はまだ新刊が購入できるようですが、文庫は品切れ、電子版があるのみです。

それを今回の展示のためにまるごと作り直し、そのカバーをいろんなブックデザイナーに自由にデザインしてもらおう、という企画なのです。

左から2003年刊単行本、2007年刊文庫、2022年刊新装版(カバーなしの状態)

ブックデザイナーの遊び

そもそもこの企画が立ち上がる前には下地がありました。
折原はこれまでもタイムレスブックスという名義で古い文芸作品を元に装丁で遊ぶ展示をしてきて、
例えば太宰治『女生徒』江戸川乱歩奇想短編集梶井基次郎「檸檬」萩原朔太郎×山川直人『猫町』などがあります。

どれもブックデザイナーたちが集まって本を一から作り、思い思いにカバーをデザインするというデザイナーの遊びです。
自分たちの思うように本を形にするのはたいへんでもあり、しかしそれ以上に楽しい作業でした。2019年の『猫町』で萩原朔太郎の原作を漫画家・山川直人さんに漫画化していただき原作とともに1冊の本にしたときには、それまでの過去の名作ではなく、現在進行形の作家と一緒にできる喜びというか、おもしろさがありました。

そして次に何を題材にするか「現在の小説を元にできれば…しかし版権というものがあるし」と考えあぐねていた時に、一緒に展示してきた福田和雄さんが

「坂川さんの『遠別少年』が面白いよ」

坂川さんはブックデザイン界では100万部越えのベストセラーの装丁を多く手がけるなどビッグネームであるけれども、我々後輩たちとも気さくに付き合ってくれるありがたい先輩なのです。

坂川さんなら小説を題材に使わせてもらえるんじゃないかと持ちかけると
「いいよ」
とあっさりOKが出たのでした。

『遠別少年』はしばらく前からあまり流通していない状態だったので、新たに作ることは「むしろありがたい」とまで言ってくださり。

そういうわけで、ここから『遠別少年』装丁展はスタートしたのです。2019年のことです。

新型コロナ、そして突然の

2020年初頭には坂川さんを囲んで参加デザイナーが集まりました。

2020年にデザイナーが集まり顔合わせ。上機嫌の坂川さん

この時はなごやかに、楽しく時が流れ、夏に予定している展示が無事に開催できることを疑っていませんでした。

しかし、この頃から新型コロナウイルスがじわじわと蔓延し始め、開催できるか様子をうかがいながら過ごし、夏がやってきたとき。
坂川さんが別荘で倒れ、あちらに旅立たれたという知らせが届きました。
耳を疑いました。何かの間違いでは…しかし事実は冷酷でした。
68歳。まだ若い。70歳からは絵本作家になると言っていたのに…

展示会は中止?…と思っていた時、展示メンバーでもある娘の坂川朱音さんから
「坂川が赤字を書き込んだ『遠別少年』が見つかった」
という連絡が。
それは鉛筆で直接修正が書き込んである単行本でした。

修正したところには黄色い付箋が貼ってありました。
「せっかく作り直すなら、加筆修正したい」と坂川さんは話していたけれど、ここまで進んでいたとは。
これはもう、新装版を作るしかない——

そして2022年2月、本(とカバー)ができあがり、展示にこぎつけたというわけです。

新装版『遠別少年』のスタート


タイトルの意味をわかっていただけるでしょうか。
主役は故人ではありますが、これは亡くなった人を悼むための展示ではなく、たまたま主役がいなくなってしまったけれども『遠別少年』という素晴らしい小説を、ブックデザイナーたちが(それぞれタッグを組んだイラストレーターたちと)彩る楽しい展示なのです。

「遠別少年」装丁展

2022.2.11(金)12(土)13(日)
18(金)19(土)20(日)
25(金)26(土)27(日)
12:00-19:00
●会場
Gallery装丁夜話
東京都渋谷区神宮前1-2-9 原宿木多マンション103
●参加デザイナー
阿部美樹子/石間淳/小口翔平/折原カズヒロ/坂川朱音/坂野公一/白畠かおり/近田火日輝/福田和雄/藤田知子
●参加イラストレーター
浅妻健司/草野碧/さかたきよこ/髙栁浩太郎/平井利和/三橋乙揶/保光敏将/横山雄/3WD


出来上がった本は会場で販売いたします。
いらっしゃれない方のためにオンライン販売も予定しています。

オミクロンが蔓延しているこの状況では、ぜひ足をお運びくださいと言いにくいものがありますが、『遠別少年』はぜひ手にとって見ていただきたいと思います。
混み合う時には入場制限させていただくかもしれませんが、いらしていただければ幸いです。
お待ちしています。

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