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自転車はもっと自由な乗り物だ

自転車に乗れば毎日が冒険 第2回
第1章 「冒険」について考えてみる

仕事の飲み会の席などでうっかり「趣味は自転車です」などと口走ろうものなら「体力ありそうですね」とか「何kmくらい走るんですか」、「何台持ってるんですか」と遠慮がちに質問が返ってくる。「いえ、そうじゃないんです。仕事帰りや空いた時間に自転車でのんびりとあちこち冒険するのが好きなんです」と続けるも、ぽかーんとされて周囲はビミョーな空気に包まれる。どうやら"仕事帰り"、"自転車"、"のんびり"、"冒険"ということばがうまく結びつかないらしい。

あの時ぽかーんとしていた人たちは"通勤通学や買い物の足としてのママチャリ"や、技を磨き体を鍛えて限界に挑戦する"競技用ロードバイクやマウンテンバイク"のような両極端の自転車を思い浮かべていたのかもしれない。日常の中で自転車に求めることは実用的な移動手段としての利便性や快適さであって、そこに楽しさは求めない。つまり、自転車を楽しんだり自転車を趣味とする人 = スポーツ好き、アスリートだったり、モノや機械としての自転車を愛でる人というイメージが強いのではないだろうか。

いえ、そうじゃないんです

スポーツ(sport)という言葉の語源といわれるラテン語のデポルターレ(deportare)には、仕事や家事などの日常生活から離れること、つまり気晴らし楽しみ遊びといった意味があった(※1)。現在はスポーツ=身体的な運動、なかでも競技的要素の強い、技術的にも身体能力的にも高度な運動を指すことが多くなっているけれど、スポーツとは本来もっと幅広い意味を持つ言葉だったのだ。

自転車はもっと自由に、もっとのんびり楽しんでもイイのではないだろうか。体を鍛える"体育"のような楽しみ方はもちろん、好奇心を満たす"理科の観察"や"社会科見学"、そしてオヤツや弁当を持って出かける"遠足"のような楽しみ方があってもイイと思う。

通りすがりの公園で色づき始めたカエデやモミジの葉や、和菓子屋さんの店先に張り出された「栗きんとんあります」と書かれた短冊も、自転車でのんびり走れば見逃さずに済む。自転車ならいつでもどこでも止まれるし、またすぐに走り出せる。乗り入れ禁止の公園なら押して入るか駐輪場に置いて歩けばいい。路地裏に迷い込んでもすぐに引き返せるし、担げば階段さえも登ることができる。河川敷を走って渡し船に乗ってもいい。車輪を外して専用の袋に入れてしまえば新幹線にも飛行機にも乗ることができる。歩くよりも効率的に長い距離を移動でき(※2)、電車よりも自由度が高く、クルマやオートバイよりも小回りが利く。自転車はそんな自由な乗り物なのだ。

つまり自転車は"ビークル"なのである。何を当たり前のことを、と思われるかもしれないが、「vehicle」には"乗りもの"という意味と、"媒体"や"手段"という意味がある。運動といった観点から語られることの多かった自転車の楽しみ方ではなく、乗ればワクワクするような、日常のなかで冒険を楽しむ"広い意味でのスポーツ"を楽しむために、自転車に乗って出かけよう!

 ※1)スポーツ庁Web広報マガジン『DEPORTARE』
  → スポーツ庁が考える「スポーツ」とは?Deportareの意味すること
 ※2) Steve Jobs, "Computers are like a bicycle for our minds."
  → https://www.youtube.com/watch?v=ob_GX50Za6c

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本日の1曲 ♪That's the Way (I Like It)/ KC and the Sunshine Band

ライディングテクニックやトレーニング方法の解説、モノやルートの紹介は他の専門的なガイドにお任せするとして、ここでは自転車に乗って冒険に出かけたくなるような具体的なアイディアを紹介していきたいと思う。
スティーブ・ジョブズが専門家向けのコンピューターをその他大勢の個人の自由のために再定義したように、自転車の楽しみ方を for the specialist ではなく、for the rest of us としてもう一度考えてみたい。
「"アイテム"ではなく"アイディア"を」というテーマで、初めて補助輪を外した時のあの開放感をいつのまにか忘れてしまった"大人"たちに「また自転車に乗ってみようかな」と思ってもらえることを願って、このガイドを始めたい。

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