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フィルムカメラで歩く モノクロームの世界

 その昔……私がまだ小学校に上がるかどうかという年齢の頃、周りの大人がカメラで撮って〈写真屋さん〉で受け取って来る写真は、すべてモノクロだった。新聞の報道写真も、白黒。
 本や雑誌の場合も、カラーページはまだ珍しく、そういうページがたくさんある本は、ちょっと高価で特別という感じだった。

 家にあった、画面の小さいブラウン管テレビも、白黒しか映らなかった。時代的には、すでにカラー放送は視聴可能になっていたらしいが、カラーテレビはまだ高価で、私の住んでいた地域ではほとんど普及していなかった。そもそも白黒であろうと、テレビ自体、必ずしも各家にあるものではなかった。
 だから、眼前にない事を知ろうとする場合、それらの画像や映像は大部分が色を持たないものだったのである。実際はどんな色かなぁ、というのは、想像で補うしかない。

 私の場合で言えば、友達のKちゃんの家がわりあい裕福で、近所では一番早くにカラーテレビを購入。見せてくれるというので遊びに行って、初めて色つきで見た番組が「リボンの騎士」。オープニング音楽と共にあの独特の〈手塚カラー〉がパアッと画面にあふれた時には、きれい、と思うより、視覚的ショックが真っ先に来たことを今でも覚えている。
 ここまで言うと、大体年齢がわかるだろう。でもまだ、こういう時期の記憶を持っている人は結構多いはずだ。

 で、昨年。フィルムカメラが使えるようになったら、絶対、一度はモノクロフィルムで撮ってみようと思っていた。父がむかし愛用していたカメラを、修理に出していた時のことだ。
 (今なら、カラーで撮ったって、デジタル画像にしてiPhoneやPhotoshopに取り込めば、いくらだって〈モノクロ〉に変換できるじゃない?)
 そんな声が心の片隅には響いていたけれど、そうじゃない、とその度に私は反論していた。私は、あの〈ナマの世界以外はみんな白黒〉という時代の雰囲気を、モノクロフィルムでもう一度味わってみたいんだ、と。

 で、実際にフィルムを一本使い切って、現像してみて、どれもみんなピントが甘いな…と少しがっかりしたが、知人に見てもらったところ「いやあ、この、写りが柔らかい感じがあるから、古いカメラはいいんですよ」と言われ、そんなものかな、と考え直した。
 確かに、今のデジタル一眼レフやスマホなどは、瞬時にピントが合うから、写りはみんな、キリッと鮮明になってしまう。後からフィルターでぼかすことも可能だが、それはまた違う感じだ。


 これは、街歩きの時に、遠く山側へ続く道を撮ったものだが、ごく普通の道の風景が、どことなく異次元感をまとった感じで写っている。特に、空の色が消えて、雲がモヤモヤした白とグレーの濃淡に〝変換〟されていることで、全体に不思議な気配が漂っているように見える。このミステリアスな感覚、好みだ。〈ナマの世界以外はみんな白黒〉のレトロ感というよりは、モノクロ絵独特の異界感がかもし出されているようだ。
 と言っても、写真歴の長い方々から見れば、単なる初心者のピンボケ写真でしょう、となるのかも知れないが。

 ただ一つ、自分なりに気づいて「なるほど」と思ったのは、結構遠近感が良く出るというところ。Yashica 72-E、さすが、被写体までの距離を手動で調整できるだけのことはある。でも多分、カメラ慣れしている人だと、絞りやシャッター速度の組みあわせで、奧行きをもっと効果的に表現できるのだろう。

 まあ、焦ってすぐさま上手になる必要は、私にはまったく無いので、ゆっくりゆっくり、カメラと話をするように、時間をかけながら作例を増やしていきたい。


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