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大学で"超能力"開発ゼミをやってみたら

意外な告白

大学教員として試行錯誤の毎日で、うまく行かないことのほうが圧倒的に多いのだが、去年あるひとりのゼミの学生から、意外なことを言われて、たじろいだ。

仮にO君としよう。O君はおとなしい、口数の少ない目立たない学生だった。

それが廊下ですれ違った僕に息せき切った様子で話しかけてきて、「トヨタ系のあの会社に内定決まったんです。先生のおかげです」と言うのだ。

なにかいつものO君と違う。積極的で、明るくおまけに以前は微塵も感じなかった力強いオーラも出ているではないか。

O君は、話しだした。

「先生のゼミが素晴らしかったんです、あれで僕は別人になったんです」。

何の話か、と思った。

確かに色々手を変え品を変え、ゼミは学生のコミニケーション能力をアップさせるべく懸命に取り組んできた。しかし、手応えを感じたことはほとんどなく、いやいや付き合ってくれる学生に内心がっかりしながらも、試行錯誤を続けてきた。

彼は具体的にどのやり方で自分が変わったかを説明し始めた。以下箇条書きにしてみる。

超能力実習?

1. アナウンサー発声練習:

あいうえお、から最後まで大きな口を開けて発生する、逆からもおこなう。アナウンサーの基礎訓練としてよく知られた訓練だが、O君いわく「発音、発声がよくなり、声が通るようになり、面接で自信がつきました」とのこと。

2. 電車移動実況中継訓練

アナウンサーの徳光和夫氏が修行時代に試みた、見たものすべてを口にする訓練。本来は電車に乗って刻々と変わる風景を車窓に貼りついて実況中継をするのだが、電車のシチュエーションができないので、教室の窓から外の風景を実況する。

O君は「目に飛び込んでくるものを、そのまま口に出すのは難しかったですが、目と口が連動するようになり、見たものをすぐに口に出せるようになりました」とのこと。

3. プロレス実況訓練:

ビデオでプロレスを写し、音声を消して学生がプロレス実況を行う。プロレスが好きでないものは、ボクシング、サッカーなど選べるが、馴染みのない競技のほうが効果は高い。

O君は「声が止まると実況にならないので、常に何か言わなくてはなりませんでした。おかげでおしゃべりになりました(笑)」。

4. 一対一での聞き出し訓練:

相手のことに興味を持つ訓練。質問をするのだが、相手に愛情いや興味を持たなければ質問できない。現代人は他者に関心を持てないが、無理矢理にでも他者に興味を持つことでしか、コミニケーションはうまれない。

O君「知らない人とでも話せる自信がつきました」。

5. 東スポで興味の範囲を無理やり広げる訓練:

東スポ(東京スポーツ新聞)は話題の宝庫。無理矢理にでも読むことで、現代のコミニケーションに必要な知見を拡大させる。紙の新聞を読む習慣もつけさせたい。

O君「はじめてこんな新聞があることを知りました。『大人のページ』外さなくても良かったのに(笑)」

6. 雑誌ムーで”怪奇経営学”訓練:

「ムー」は学研から出ている超常現象を究明する雑誌。科学的だけではなく形而上学的(要するにスピリチュアル)なことにも偏見を持たず、知の地平を広げさせる試み。

O君「心霊やUFOを信じるようになりました(笑)」。

ちなみに本授業では「怪奇経営学」の名のもとに、あらゆる形而上学的なトピックを取り上げ、経営学で斬るという「怪奇経営学」を納涼企画としてやることがある。これは全員が集中して聞いてくれる(笑)

7. ライティング訓練:

直近1ヶ月分の東スポを題材に、気になる記事について自由に書かせる。デジタル書きでなく、鉛筆で手書きし、脳を活性化をする練習も兼ねる。

O君「先生がコメントを書いてくれるのが励みになって、書くことが好きになりました」。

8. 透視訓練(笑):

これは彼には未遂。目隠しをして、色のついた紙を手で触って色を当てる訓練。使わない五感は衰えるという理屈で、眠っている”超能力“をめざめさせる。前職の新潟経営大学で実際にやって手応えを感じていたのだが、手間がかかるので清和大学ではできてない。

この訓練でO君は

「見違えるほどコミニケーション能力が上がり、その結果、第一志望企業に内定しました」というのだ。

僕はただあっけにとられるだけだった。

本当だろうか。本当であってほしい。

今日も最後まで読んでくれてありがとう。

ではまた明日。

                             野呂 一郎


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