見出し画像

なぜトヨタがオリンピックCMを自粛した判断が、最新マーケティングの模範といえるのか

マーケティングのトレンドは「正確さ」

現代のマーケティングのキーワードって、僕は「正確性」だと思うんですよ。マーケティングはアメリカが常に最新トレンドの震源地だから英語を使うのを許してもらいたいのですが、英語でいうとプリサイス(precise正確な)で、このプリサイスという言葉が、今のマーケティング文献には頻繁に出てきます。

じゃあ、このプリサイス、名詞はプリシジョン(precision)ですが、どういう意味なのでしょうか。

それは「いいかげんにやらない」という意味です。マーケター(マーケティングの専門家)はしばしばマーケティングという言葉に酔ってしまい、アメリカの最新マーケティングって言ってれば仕事をしているように錯覚しがちです。結果よりも、かっこいい最新手法を取り入れるかが勝負、みたいなところがあります。

でもやってることは、抜けていた。正確さが足りなかったのです。

そう、いままでのマーケティングはいい加減、だったのです。いい加減なマーケティング目的、いい加減なセグメント、いい加減なターゲット、いい加減な訴求、PDCA(計画、実行、チェック、行動)サイクルをいい加減に回すなどは、あたりまえでした。

プリシジョン・マーケティングとは何か

これに真正面から異議を唱えた理論が、プリシジョン・マーケティングです。文字通り、正確性に重点を置いたマーケティングです。僕は2006年に拙著「ナウエコノミー -新・グローバル経済とは何かー」で、このプリサイスという概念を中心に据えたマーケティングを紹介しました。

プリシジョン・マーケティング(precision marketing)です。結果を出すことにこだわり、緻密なプロセスを重んじるマーケティング手法です。

ちょっとそのさわりだけ、パワーポイントの図でお目にかけましょう。

画像1

解説すると一冊の本になってしまうので、上図の1だけ。

まず、マーケティングの目的を決めること、これが大事なんです。

どの企業も一律にこの商品の売上を増やしたい、というわけでもありません。アプリのダウンロード数をあげたい、だとか、メールアドレスをなるべく多く集めたいとか、特定の情報がほしいだとか、マーケティングの目標は色々あるはずです。まずはこのマーケティングの目標を「正確」にすることがプリシジョン・マーケティングなのです。

プリシジョン・マーケティングの詳細については、拙著を読んでいただければと思うのですが、当時は未熟で、プリシジョン・マーケティングの本質をとらえていたか疑問です。またいずれ、noteやオフ会かなんかで本当のプリシジョン・マーケティングを皆さんと共有したいと思っています。

テレビCMの「正確さ」が、いま、問われている

今の僕のプリシジョン・マーケティングのとらえかたは、すごく大きくて、例えばThe Wall Street Journal2021年6月21日号に掲載されたTV operators team up to simplify ad market(テレビ事業者がチームを組んで広告市場を簡素化)という記事も、ああこれもプリシジョン・マーケティングなんだな、と感じたんです。

要するにこの記事は、今テレビの広告つまりCMですね、これがプリシジョン・マーケティングになってない、ということがテーマなんです。マーケティングが正確じゃない、いい加減なんです。とくにターゲットに合わせたCMを各社打ててないんです。

だから、アメリカのテレビ事業者、ケーブルテレビとか、CS放送だとかの有料テレビの事業者が、合同でコンソーシアム(共同事業体)を創り、いかにテレビと企業が組んでつくるCMを正確にターゲットに届ける仕組みづくりに乗り出したという話です。

トヨタの先見性

トヨタはこの記事に先立って、プリシジョン・マーケティングを実行しているんですよ。皆さんご存知のように、トヨタはオリンピックの公式パートナー企業であるのに、オリンピック関係のCMを一切流さないと宣言したじゃないですか、あれはトヨタ流のプリシジョン・マーケティングなんですよ。

要するに、オリンピック関連のCMって、特にターゲットなんてないんですよ。いや、プリシジョン・マーケティング的に言えば、マーケティングの目的は「オリンピックに乗じて企業イメージを上げること」です。

でも、トヨタは、国民の半数がその開催に反対しているこのご時世では、オリンピックになぞらえてCMを打っても、逆効果だと判断したんです。企業イメージが上がるどころか、下がる恐れがある。

しかし、多くの企業はマーケティングの正確性について、いい加減に考えているんです。企業イメージを上げることが、このオリンピックマーケティングの目的、このことすらしっかり把握していない。

大手広告会社に「オリンピックCM適当に作っておいて。そうだなあ、スポーツは人間のココロを明るくする。我社もそうだ、みたいな感じだな」。どこのCMも実際そんな感じのつくりですよね。この三井不動産のCMはあす、しっかり分析しようかな。

トヨタは、まず、この環境では当初のマーケティング目的を遂げることが困難だ、そう判断したんです。

金持ち企業の余裕と捉えるのは間違いです。

環境が変われば、つまり市場のムードが変われば、当初計画した内容を変更、中止することはまっとうな意思決定といういうべきです。

トヨタがなぜ、海外市場で日本企業としては異例の、大成功を収めているのか。

それは今回も示したように、常に変わる市場への対応がうまいから、そう思いますね。

長くなりました。明日はまたテレビCMについて考えてみましょう。

今日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

明日もお目にかかるのを楽しみにしています。

                             野呂 一郎

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?