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「プロレス八百長論」という的外れ

教室はリングだ

大学の教室はプロレスの会場にも例えられるだろう。教壇がリング、客席にはファン、いや学生が座っている。無理くり一緒にするな、という声が聞こえそうだが、実は目に見えない恐ろしい仕掛けがあるという点では、もっと怖いほど似ているのだ。

レスラーも教師もリング(教壇)に上がると、自分の意思以外のものに支配される。心も体も乗っ取られるのだ。

よくしたり顔で「プロレスなんて八百長さ、試合にはシナリオがあってレスラーはそのとおりに演技しているだけさ」などという人がいるが、とんでもない誤解だ。

仮にシナリオがあっても、そのとおりには絶対に動けない。

リングから発せられる磁気と観客から放散される光線によって、練ってきたはずのゲームプランがまったく機能しない。

もっというと、レスラーは自分の意志でなく、そのえたいのしれない、目に見えない磁気や光線によって踊らされているだけなのだ。

「武藤敬司の不思議」は不思議じゃない

レスラーは、スタートからフィニッシュまでの青写真を描くのだが、それは思うままには実行できないものなのだ。それがリングの魔力というものだ。リングに上がると、ゲームプランなどどっかにすっ飛んでいってしまう。

例えばリングに上がるとき鉄柱が目に入る。そうすると「それを使ってやつの股を引き裂いてやろう」と思いつく。

試合前のボディチェックでレフリーと目があった瞬間、「このレフリー、シャイニング・ウイザードの踏み台にできるな」とかひらめく。

「ブレーンバスターは中盤でリングに落としてから、上がってきた時に決めてやる」と決めていても、相手の首に手をかけた瞬間、トップロープを使ったネックブリーカードロップになっていた。

プランはすべて白紙になるのがプロレスラーの常なのだ。

ベストバウトと呼ばれる試合で、レスラーの思い描いたプラン通りになった試合は、ない。

なぜか。

それはプロレスの主役がレスラーではなくて、観客だからだ。

いいレスラーほど自然に、いや無意識に観客が瞬間瞬間で求めるものを五感で察知し、それを実現しようとする。

よく武藤敬司が「なぜ、あそこでドラゴンスクリューを出したんですか」などと聞かれて、「そこに足があったからだよ」などと答えているのを週プロ(週刊プロレス)で見るが、身も蓋もない答えだがそのとおりなのだ。

リングと教壇に棲む魔物は同じ

リングには何かが棲んでいるのだ。僕はレフリーは試合前に選手のボディチェックをするが、リングもチェックしたほうがいいと思う。

僕もここ10年、新潟プロレスという団体のアドバイザーをつとめていて、リングにはしょっちょう上がるからわかる。

リングに上がるとおかしな高揚感に包まれ、自分が自分でなくなり、変なことを言ったり、よけいなパフォーマンスをすることがある。後で指摘されるもまるで覚えていない。

実は教壇もそうなのだ。

パワーポイントで講義プランなどを作ってくるのだが、そのとおりにやった試しがない。

教壇からもなにか磁気がでているし、学生からも光線が出ている。プロレスほど強烈ではないにせよ出ていて、今日のゲームプランを「それじゃないよ」と教えてくれるのだ。

昨日、なぜ経営学にプロレスが必要なのか、と問いかけたが、「リングが、観客がそう言っているからだ」、それが答えだ。

よく野呂さんはプロレスが好きなもんだから、大学の授業でプロレス、やっちゃったんですよね、としたり顔に言われることがあるが、違う。

プロレスを出せと言ったのはあくまで教壇であり、学生なのだ。

確かに言ったよ。少なくとも僕の魂は、その強いリクエストを受け取ったのだ。

経営学とはお客を振り向かせる学問、と言った。その答えを教壇というリングは、学生というファンは持っていた、ということだろう。

「最狂超プロレスファン列伝」というエビデンス

そういうとアンチプロレスファンがかならずこういう。

「確かに今よりはプロレスは人気があったけれど、あの頃だって誰もがプロレスを好きなわけじゃなかったぞ」。

でもそれは違う。

エビデンスもある。あの頃は初代タイガーマスクが世の中を席巻していた。誰もがタイガーに夢中になっていた。視聴率も金曜8時のゴールデンタイムで20%近かった。プロレスは社会現象たり得ていた。

僕が最も尊敬する漫画家・徳光康之先生がそのころ、「最狂超プロレスファン列伝」を世に出した。すさまじいプロレス愛をもった学生プロレスファンの日常を描いたものだが、確かに僕がこの漫画の影響を受けていたことは、ただ、認めざるを得ない。

こうして、地味な経営の歴史をとうとうとしゃべるはずの授業は、毎回大教室のスクリーン狭しと猪木が暴れ、タイガーマスクが飛ぶという、金曜8時ワールドプロレスリングさながらの異次元が展開する異空間になったのだ。

今日も最後まで読んでくれてありがとう。

明日もプロレス、やるよ。

                              野呂一郎

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