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サンフランシスコを廃墟にしたのは誰だ?

この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:アメリカ中のビジネス中心街が急激に空洞化している現状。テクノロジー企業とリモートワークの関係。企業>自治体というアメリカの現実。企業は時代の変化にどう対応すべきか。

ダウンタウンが廃墟化するアメリカ

ダウンタウン(downtown)という言葉は、僕も間違えていたのですが、下町ではなくて、ビジネス繁華街のことです。

The Wall Street Journal電子版2023年10月21日号はAmerica’s Downtowns Are Empty. Fixing Them Will Be Expensive.(アメリカのダウンタウンが空に。解決にはカネがかかる)という見出しで、アメリカの主要都市から人がいなくなる現象の深刻さを訴えています。

最も深刻なのが、サンフランシスコなんです。

都市の空洞化をもっとも顕著に表しているのが、オフィスの空室率です。

サンフランシスコは2023年度第2四半期現在で、なんと31.6%。パンデミック前の2019年の7倍です。

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これに続くのがヒューストンの24%、以下ロサンゼルス、アトランタが20%、これにワシントンDC、シアトル、フィラデルフィア、マンハッタンが16%から20%で続きます。

いったいなぜ?

それは皆様ご察しのとおり、リモートワークの時代になったからです。

特にサンフランシスコはテクノロジー企業が集中しており、テックハブ(tech-hub)と呼ばれていました。

サンフランシスコの廃墟化は、テクノロジー企業がパンデミックを機にリモートワークという新しい働き方に舵を切ったことを意味します。

サンフランシスコの惨状

僕がはじめてサンフランシスコを訪れたのは、サラリーマン時代の30数年前、きれいなベイエリア、坂道の綺麗さが印象的で、その頃は特にテクノロジー都市というイメージはありませんでした。

金門橋。https://qr1.jp/SQinfh

しかし今や世界のトップ20企業のうち8社がサンフランシスコに本社を持っています。

そして、人工知能AI関連企業223社のうち、80社がサンフランシスコにいるのです。

しかしガラガラの街は、いまやホームレスと犯罪の街になってしまいました。

メタ(旧フェイスブック)も、AIで企業の効率化を支援するビジネスを展開するセールスフォースも、そんなサンフランシスコに嫌気が差し、出ていってしまいました。

レストランも、ビジネスパーソンたちが街に来ないのですから、あがったりで、おまけに犯罪や破壊行為で店の経営が困難になって、他の都市に流出する事例がどんどん増えています。

サンフランシスコは経営学の生きたテキスト

100年以上も前の1906年、サンフランシスコは大地震に見舞われ、都市の4分の3が灰燼に帰しました。

それからサンフランシスコは金融都市として蘇り、ITの都として繁栄していくのですが、その歴史はboom and bust (いい時期と悪い時期を繰り返す)といわれています。

しかし、楽観はできません。

では、どうしたら、サンフランシスコは復興できるでしょうか。

このテーマこそ、経営学の生きた教科書といえるでしょう。

ケーススタディの手法を借りると、こうなります。

1.現状把握
2.問題の特定
3.解決策の提示

簡単にまとめてみましょう。

1は、非常にトリッキーです。いま、アメリカのマスコミは「サンフランシスコ危機」を煽っています。

しかし、人々の生活はそう荒廃しているわけではなく、美しいサンフランシスコは健在です。

問題は「認識のギャップperception gap」なのです。

つまり、外部の人間の認識は「サンフランシスコは地獄」であり、内部の人間の認識は「まだまだいいとこだよ」なのです。

この現状については、もうすこし客観的なデータが必要でしょう。

2.問題は32%にも及ぶビルの空室率です。ホームレス、バンダリズム(vandalism破壊行為)が増えたのも一目瞭然です。

企業の外部流出もとまりません。あるデータでは、税収は75%減とのことです。

3.新しい変化の中で「サンフランシスコがどうあるべきか」を定義することです。

市長は「オフィスビル街じゃない。9時-5時のビジネスアワーの街から脱却だ」と、あたらしいサンフランシスコを定義します。

具体的には、オフィスビルを住宅用の家屋に変える、というのです。

ビジネスも、ピンチをチャンスに変える動きをしています。

例えば、ディベロッパーが高層ビルを10年前の半額で、買い叩いています。

これは「サンフランシスコ危機は底をついた」と見るからです。

最悪の状況は終わり、これから徐々にビジネスは戻るという見立てです。

こうした投資が進めば、サンフランシスコに活気が戻るかも、です。

いちばん重要なのは、リモートワークの帰趨です。

これは一過性の出来事なのか、それとも永続するトレンドなのか

もし後者であるとしたら、高層ビルを一度全部スクラップして、観光都市に切り替える等の荒療治が必要かもしれません。

日本への示唆

木更津に職場があり、いつも思うことは、「経済は人口なんだな」ということです。

人がいなければ、なにも始まりません。

自治体は、どうやって、人を企業をその土地に誘致するかが問題です。

コロナで、人通りがなくなった街は木更津だけではなく、東京もそうでしたが、リモートワークのダメージを思い知らされました。

しかし、今は完全リモートの企業はほとんどなくなりました。

しかし、このnoteの記事で今まで散々書いてきたように、アメリカはコロナをきっかけに、実質リモートが中心になってしまったのです。

https://qr1.jp/3AzJpN

在宅でモノやサービスを買うアメリカ人は、ますます多くなるでしょう。

日本企業は、この新しい市場を狙うべきです。

家庭というビジネス現場が、企業の代わりになってきた時代、あたらしいマーケットが生まれたのです。

しかし、リモートという働き方がアメリカで定着しつつあるのは事実ですが、オフィスをより魅力的な働く場所とし、地域にお金を落としてもらう努力を自治体は継続すべきです。

いずれにしても、アメリカのダウンタウン崩壊は、日本にとって対岸の火事でないことは事実です。

野呂 一郎
清和大学教授



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