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否定語を一切使わずにトランプを徹底的に否定した男の「言葉の合気道」

婉曲表現の偽善

英語にeuphemism (ユーフェミズム。婉曲表現)というのがあります。例えばtoilet をrestroomと言う、死んだdiedをpassed awayと表現する、という類です。これは直接的な言い方を和らげる働きがあり、話者の聞き手に対する気遣いが感じられ、結果、話者の教養や上品さが称賛されるモノの言い方です。

しかし、言い方を変えても事実は事実で、それって慇懃無礼じゃないの、とおっしゃるあなたは鋭すぎます。僕もそう思うのです。

ベイカー流”超婉曲表現”

昨日とりあげたベイカー氏の言説は、はっきり言ってトランプ批判をしているんです。それも尋常じゃない否定、吊し上げと言ってもいい。

「トランプのバカのおかげで、共和党は政権とれなかった」、これがベーカーさんの言いたいことのすべてです。とまあ、これは僕の独断ですが、じゃあこれを普通に婉曲表現したらどうなるでしょうか。

He should have done otherwise.(彼はほかにやりようがあった)くらいでしょう。

でもベイカーさんは直接トランプを傷つける表現を使ってないのに、トランプのトの字も使ってないのに、結果的にもっとずっと強烈にトランプを吊るし上げるような言葉の効果を、満天下に披露しているんです。

それは、二つの表現です。一つは表題の「選挙はパーソナリティよりも政党理念にフォーカスせよ」。もうひとつは「結果に異を唱える55件の訴訟に全敗した。『選挙は盗まれて』はいなかった」という表現です。

この二つの表現にトランプという言葉は一切出てきません。しかし、強烈な皮肉とあてこすりが感じられますね。前者は「トランプを前面に押し出したから共和党は負けた」という怨嗟です。

後者は「トランプのやつ、『選挙は盗まれた』なんてデタラメをほざきやがって。そら見たことか、エビデンスのかけらもない訴訟は全敗だ、みっともない」というあからさまな本音がのぞきます。

ここに、ベーカー流コミニケーションの真髄を見た思いがしましたね。

言葉の合気道

激しい言葉で罵倒するよりも、事実と意見を並べるだけで、はるかに強烈な非難になっている。これはユーフェミズムなどではなく、一つのアート(芸術)です。そう僕は思いました。

後者でベーカーさんが使ったテクニックは、言ってみれば「言葉の合気道」です。合気道はこちらからは一切力を用いずに、相手の力を利用して相手を勝手にマイッタさせる武術です。コツは、相手の力の方向に自分の力をちょっと添えてあげるだけ。

今回はトランプの起こした55回の馬鹿げた訴訟は、彼の「選挙は盗まれた」とする言いがかりによるものでした。

ベイカー氏はその「選挙は盗まれた」という言葉に、敗北という事実を添えてみせたのです。訴訟たくさんやったという結末、つまりチカラの方向は、失敗につながった。

ベイカー氏はそのチカラの方向に、「全部敗北」という同じ方向の言葉の力を添えただけなのです。それでトランプがひっくり返ってしまった。これが僕の言う「言葉の合気道」です。

ベーカーさんのこの短い論説には、まだまだ巧みな装置が仕込まれていて、コミニケーションの効果を上げているのですが、それはまた明日やりましょう。

こういう文章を日本語で、英語で書ける能力。これこそがリーダーに求められています。

今日も読んでいただき、ありがとうございました。

また明日お目にかかりましょう。

野呂一郎

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