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不安のメリット! お化けに震えろ。

エリ「脚、ふるえてきた」
こころ「まーあと30分は待つでしょ」

テーマパーク内の、とある行列。
看板には「激怖お化け屋敷」と書いてある。

こころ「つか、そんなビビるやつじゃないんだけどね」
エリ「いやもう、そういうんじゃないんよ。アレルギーみたいなもんで」
こころ「じゃあ、やめる?」
エリ「やめない」
こころ「アレルギーならやめたほうが」
エリ「うーんアレルギーと違うか。なんだろう。激辛みたいな。怖いけど食べちゃう! みたいな」
こころ「私、辛いのキライ」

列の並びには比較的子どもが多い。
脚のふるえる子どもはいない。

エリ「てか、なんで人は辛いのが好きになるんだろう」
こころ「話聞いてる? 私はキライなんだけど」
エリ「辛いってぶっちゃけ痛いじゃん。なんで痛いってわかってほしくなるんだろう」
こころ「ほしくならない」
エリ「今度ロシアンたこ焼きしない?」
こころ「あー、エリ全部食べていいよ」
エリ「わーい。ってオイ」

当然、行列の中で周りは人だらけ。
このしょうもないやり取りが聞かれているのかと思うと恥ずかしい気もするが、それ以上にヒマなので仕方ない。

旅の恥は搔き捨てって言うしな、うん。
こころは、強引に格言を根拠にして自分を説得した。
適切な引用かは、怪しい。

エリ「あかん、手も震えてきた」
こころ「まじ?w」
エリ「ほら」

確かに小刻みに震えている。
そんなに怖いか……?
入口には、子どもが描いたような、ザ・おばけという趣の白くてふわふわしたやつがいる。

こころ「何がそんなに怖いん?」
エリ「てか、怖いとか不安とかって、悪いもの?」
こころ「ん?」
エリ「いや、ふと思ったんだけど」
こころ「私の質問は無視?」
エリ「うん」
こころ「いや、うんて……」

強情だ。
怖いとか不安とかが、悪いものかって?

こころ「まぁ、悪いかはともかく、気持ちのよいものではないよね」
エリ「それはそうだね」
こころ「質問の意図は?」
エリ「ん-なんだろ」

エリは論理的に説明するタイプではないが、気になることがあると、それを問いかけることがよくある。

エリ「なんつーかさ、例えば。この震えは、怖いからなのかな? それとも、興奮してるからかな?」
こころ「知らんがな」
エリ「武者震いかもしれん」
こころ「お化けに武者震いしてるのかい……」

エリはニヤリと笑って見せる。
理由はよくわからない。

こころ「まぁでも確かに、興奮と不安が入り混じったようなときもあるよね」
エリ「そうでしょ」
こころ「というと?」
エリ「いやー、興奮も不安も同じようなエネルギーなんじゃないかなって」

ふーむ。

こころ「そうかもね。でも、興奮してるときはなんというか前向きで、不安のときは後ろ向きってカンジじゃない?」
エリ「そっかーそう考えると、うーん今のウチは、ちょうどその中間くらいかな」

興奮するほどエキサイティングなアトラクションには思えないけど。

こころ「だから、そんな震えてるけど、悪い感情でもないってこと?」
エリ「そんなとこ」
こころ「ふーん。私、不安が湧いたらすぐにどうにかしなきゃ! って思っちゃうけどね」
エリ「それって、エネルギーだよね」
こころ「ん? まぁ……そうかな」
エリ「不安が湧いたことで、すぐ行動に移せたりするわけでしょ?」

まぁ、確かにそうかもしれない。
こころは目の前にいるこの楽観ギャルと違って、大体悲観してるし、それをどうにかしようと思って奮闘するタイプだ。

こころ「だから、不安も悪いものではないって?」
エリ「そ。程度によるけど、ちょっぴり不安がある分には、むしろパフォーマンスが高まるとかって、本で読んだ気がする」
こころ「ん-、悔しいけど一理あるかも」

エリはまたニヤリと笑って見せる。
何なんだそれ。はらたつー。

そんなこんなで、気づいたら入場手前。
「激怖お化け屋敷」へ潜入する二人。

・・・

エリ「んー、楽しかったね!」
こころ「いや、疲れた……」
エリ「あー、こころビビってたもんね」
こころ「あんたの悲鳴にね……」
エリ「あれは悲鳴だったのかな? うーん。興奮したゆえの、雄たけびだったのかも?」
こころ「しらん。どちらにしろ、声量がデカすぎだから」


ストレスの起点となるノルアドレナリン反応は、必ずしも悪いものではない。むしろ、対象シグナルへの認知性(注意や記憶定着率)を高めてくれるポテンシャルがある。

青砥瑞人.BRAINDRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは(p.70).株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン.Kindle版.


◆問いギャルシリーズ

◆文・イラスト・デザイン:ノーマル浮枝

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