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目標って必要? てか、月が来て。(問いギャルシリーズ)

エリ「も、もう、結構、走った、よね、ハァ」
こころ「いや、まだ5分くらいじゃない?」
エリ「おぉ、がんばったね、わたしたち……ハァ」
こころ「いや、終わった感出すなよ」

川の見える少し広い土手で、二人。
ランニング。

こころ「運動不足すぎじゃない?」
エリ「まぁしょうがないよね、エリは頭脳系だし」
こころ「うーんそうなの?」
エリ「とりあえず休憩……」

土手の端に座り込む。
こころは立ったまま。

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柄村こころ:軽度の社畜。勤勉家。趣味はヒトカラでシャウト。

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珠華寺エリ:意外にフリーランス。意外に読書家。ナチュラルにギャル。

・・・

こころ「おーい、脂肪はまだ燃えてないよ」
エリ「いや、燃えてる!」
こころ「口は嘘をつけても消費カロリーは嘘をつかんぞ」
エリ「うぅ」おおげさに肩を落とす。

仕方なくこころも隣に座る。
こころ「もう。少ししたら行くよ」
エリ「そうねー、この後どうする? カフェ?」
こころ「いやだから、終わりの感じ出すなよ」
エリ「まぁでも無理は良くないじゃん?」
こころ「大丈夫だよ、もう息も整ったでしょ?」
エリ「いや、ハァ、全然、ハァ」

こころは無言で立ち上がろうとするが、エリに抱きつかれる。
こころ「あつい!」
エリ「燃焼してるからね」
こころ「うるせー!」

エリの突然の思いつきで始まったランニングだったが、こころは早くも呆れ感。
幸い、空は心地よく晴れていて、風も気持ちいい。

こころ「そもそも、ホントに痩せたいの?」
エリ「もちろん!」屈託のないスマイル。
こころ「ホントかよ」
エリ「ホントだよ」
こころ「なんで痩せたいの?」
エリ「なんでって……なんでだろう?」
こころ「目標とかあるの?」
エリ「うーん」

考え込んでいる様子だった。
エリはいつも爬虫類脳で反射的に答える人間だとおもっていたので、少し珍しいと感じる。

エリ「初めて月に立った人は、どんな気持ちで地球を見たんだろ」
こころ「……?」
エリ「……ん?」
こころ「いやこっちのセリフなんだが」
エリ「誰だか知らないけど、月に行くぞ! って決めて実際、まだ誰も行ったことないのに、成し遂げたんでしょ?」
こころ「そうだね」
エリ「スゲーね」
こころ「……うん、そうだね?」どういう流れでこの思考にたどり着いたのか、ピンと来なかった。

エリ「てか、目標って必要だと思う?」
こころ「うーん、面白い問いだね。どう思う?」
エリ「ん-なんていうか、うーん」
こころは黙って、先を促す。

エリ「イイ目標はあったほうが、イイ!」
こころ「哲学的だ」
エリ「センキュ~」わざとらしく人差し指を頬に当ててウインク。
こころ「迷いなくほめ言葉だと受け取るのが、アンタらしいわ」
エリ「なんつか。目標に向かってワクワクできるときもあるし、目標が重荷みたいになるときもある」
こころ「そうだね」

エリ「てかちょっと歩かない?」
急だな。
まぁ、座ってるよりは運動になるか……。
そう思って、歩き出す。

エリ「やっぱワクワクして生きたいじゃん? だから、ワクワクする目標ならあったほうが良いな」
こころ「うん」
エリ「でもさ、月に行く! みたいなバカでっかい目標だとさ、でかすぎてピンと来なくない?」
こころ「そうだね、たぶん、目標に段階を付けたんじゃないかな」
エリ「段階?」
こころ「例えば、最初は無人ロケットで大気圏の突破。次に大気圏の外から有人ロケットで帰ってくる。で最後に月に行って帰ってくる。とか1個ずつ考えるみたいな。知らんけど」
エリ「あー」

すれ違う筋肉質なランナーたち。
けど、エリの目には入っていないようだ。

こころ「あと、絶対に達成できる目標も一緒に持つ、ってのも良いかもね」
エリ「ほう?」
こころ「やっぱりさ、目標がなかなか達成できない、ってのが続くとつらいじゃん?」
エリ「うん」
こころ「だから、それとは別に、絶対達成できる目標を立てるの。例えば毎日スクワット1回、とか」
エリ「1回て!」
こころ「そう、バカらしいと思えるほど簡単で良いの」
エリ「なんで? さすがに効果なさそうだけど」
こころ「それだけで痩せはしないだろうね。狙いはそれじゃない」
エリ「どういうことですか、コーチ!」

調子いいなコイツ、と言おうとしたが、話の内容を忘れそうだからやめた。

こころ「狙いは、習慣づけることと、確実に目標を達成したっていう達成感」
エリ「でもでも、スクワット1回で、達成感はあるのでしょーか?」
こころ「まぁ、そんなには無いと思う。けど確実に、自分で決めたことを達成してるでしょ?」
エリ「まー確かに」
こころ「たとえ小さなことでも、自分で決めたことを毎日達成してると……少なくとも、始める前よりは自信がつくと思うよ」

エリ「でも、1回ではやっぱり効果にならないのでは!?」
こころ「うん。だから、習慣になったら、変えていくといいと思う」
エリ「なるほど、慣れたら1000回にすればいいんですね?」
こころ「続くならいいけど……」
エリ「無理っす」
こころ「とにかく習慣にしちゃう。そんで少しずつ負荷を増やす、とかね」
エリ「気が遠いなぁ」
こころ「気が遠くなるほどスイーツばっか食べてんだから、しょうがないでしょ」
エリ「がーん」

すぐ近くの大きな川は、ゆるやかに流れている。
風といっしょに、雲も流れている。

エリ「目標、決めた」
こころ「どんなん」
エリ「こころんと同じ体脂肪率」
こころ「数値教えないけど」(こころんって何やねん、のツッコミは保留しておこう)
エリ「そして同時に、最高のダイエット法を見つけたのです……。題して、ココロ11号計画」
こころ「題するな。てか話聞いてる?」

エリ「こころん、今からスイーツ食べ放題に行こう!」
こころ「はぁ!? 何を言っ」
エリ「こころんの体脂肪率が増えれば、エリの目標が近づくでしょ?」
こころ「……ココロ11号である私が、アンタに近づくの?」
エリはにんまりと笑う。
こころ(逆だろ……)

こころは走り出す。
地球人にとって、月は止まっていない。
エリ「ちょ、逃げるなー!」
こころ「アンタが、ね!」


道というのは、歩くところが決まっている筋である。どこを歩くのか、どこへ向かって歩くのかが決まっていれば、ただ進めば良い。なによりも難しいのは、明らかに、歩き始めるまえの段階なのである。

森博嗣.道なき未知(ワニ文庫)(Kindleの位置No.475-477).KKベストセラーズ.Kindle版.


◆問いギャルシリーズ
世の中ってホント理不尽! それでも、たくましく生きていく乙女たちの日常と、ひとくちヒント。

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◆文・イラスト・デザイン:ノーマル浮枝

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