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14 作りかけの物語

 アイとクァシンは転がったおにぎりを追いかけていた。

 つまらない草刈りという仕事を二人ですること(未定)
 昼食をしていたら、アイがおにぎりを落としてしまったのだ。
 おにぎりにはころころ転がり、石に当たって跳ね飛び、鳥の足に引っ掛かり、落ちて、跳ねて、転がって、ちょうどそこに走ってきた子どもの足に蹴られて飛んでいき、家に転がり入ってリビングを通り過ぎると、庭にいた二羽の鶏につつかれて跳ね上がり、馬の背中を転がって、丸太の橋を渡り、つむじ風に浮かび上がると、そのまま移動して、最後は小山を転がり落ちていった。

 アイとクァシンもおにぎりを追いかけ、飛び跳ね、鳥を追って、子どもたちの間を走り抜け、家に入らせてもらい、鶏を抱えて、馬を避け、丸太の橋を渡って、つむじ風に吹かれ、小山までやってきた。

 おにぎりは、小山を転がり落ちた先にある遺跡へと消えていった。

 ここは思い出の遺跡だった。

「昔二人でここにきたね」
 とアイが言う。

「うん。こうやってスムーズにこれたのも、前に僕らが道を作ったからだね」
とクァシンが言った。

 その通り。前にも、二人は村人の家から逃げた鶏を追いかけて遺跡を探検したのだった。彼らはその時もずっと走り、里山を抜け、泥の沼に丸太で橋をかけたり、妖怪塗り壁に足止めされてはクァシンが「おでこがぶつかるのだから、後ろ向きに歩けばいい」と発見してどうにか通ったり、意味もなく丘を転げ落ちたりして遺跡へやってきた。

 だから、ここからの進み方は知っている。入ってすぐの落とし穴は飛び越え、次は矢が飛んでくるのでしゃがみながら進む、そして壁のくぼみに隠れて鉄球をやり過ごすと、行き止まりの壁を回転させて奥へすすむのだ。

 この先の部屋に見たことのない植物の種があり、当時鶏はそれを食べていた。鶏を捕まえて、持ち帰った。一緒に、その種も持ち帰った。

「そうだ。ここで見つけたのがお米だったじゃないか、覚えてる?」
 クァシンは少し興奮して言った。

「お米って?」

「おにぎりを作るのに使う白いもちもちの」

「あ、そうだ。やっと育成に成功したって言って貰ったんだったね」

 二人は遺跡の入り口に降り立った。すでに崩壊していて、何もない抜け殻。忘れられたかつての神殿。
 クァシンが女の子を見つけた。女の子は倒れた柱の上に座っておにぎりを頬張っていた。

「あれ、アイのおにぎりだよね、たぶん」
「ほんとだ、なかにお餅が入ってるから僕のだ」

 女の子は、伸ばしっぱなしにした天然パーマの茶色がかった髪をしていて、大きすぎる白い綿の服を着ている。彼女は二人に見られているのに気づくと、急いでおにぎりを喉に詰め込み、息を詰まらせた。アイとクァシンの助けで、息ができるようになると、

「よくやった二人とも」
 と胸を張った。

「きみ、なんでこんなところに一人でいるの? 大丈夫?」
 アイが聞くと、その女の子は柱から飛び降りて横の階段を駆け降り、広場にある石灰岩でできた祭壇の上に立った。

「オレを子ども扱いするな」

「子どもじゃん」
 とアイは通路から少女を見下ろして呟く。

「子どもじゃない。オレは女神だぞ」

「子どもの女神もいるんだ」
 とアイが反応すると、彼女は顔を赤くして怒った。

 彼女は風の女神であった。クァシンが彼女に、おにぎりを食べたことについて責めると、そもそもお米は彼女への供物であったと風の女神は主張した。

「だから、ここからお米をとっていたお前たちの罪は重いのだぞ、本来。しかし、あのおにぎりは美味しかった。お米があんな味になるとは知らなかったな。褒美として、いいことを教えてやろう」

「いいこと?」

「伝説の剣についてだ」

 伝説の剣、と聞いてアイは俄然テンションを高めた。
 アイは以前から剣が欲しいと思っていたのだ。それにはスライムに負けてしまったことが心の傷になっていることが大きかった。そのスライムを退治してくれた人の正体は後になって聞いて回ったが結局誰なのかわからなかった。しかし、その人は剣を持っていて、その剣でスライムを倒したらしい。アイも今より強くなるためには剣が必要なのである。

「どんな剣? 強い剣? 伝説ってなんの伝説?」

「ふふふ、気になるみたいだな」

 風の女神は長く一人で神殿にこもっていたので、何よりも注目されるのが好きなのである。

「教えてやろう」


※この話は思いつき次第、チョロチョロと書き足していきます。ずっと作りかけの物語。いつか完成するかも……? 

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