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「煙なわけないよ。煙の上に乗れないじゃん」 「雲の上にも乗れないんだよ」 「でも煙じゃなかったよ。雲の形だった」 アイとクァシンは巨大樹から北へ北へと進み、山の中へ分け入った森の中。 木々の間を右に左に探し物をしています。アイが目撃したと言う噂の『魔法の雲』を探しているのです。 魔法の雲とは、上に乗って移動することのできる小さな雲のことで、誰もその存在を本当にはしていなかったのですが、アイはリスが何匹かそれに乗っているのをこの山の森の中で目撃したと主張しています
アイはとあるお屋敷に呼ばれました。というのも、ここ数日、この家の一人娘ヒサギが寝込んでしまって、親御さんは心配に心配を重ねて、色々と原因を尋ねるのですが、何を聞いても首を振るばかりでその理由がわからず、困っているというのです。 アイとクァシンはお屋敷に向かいました。 二人は予想以上に訪問を喜ばれ、そのままヒサギの部屋に通されたのです。 話の通り、ヒサギはベッドに横になって、肩まで布団をかけていました。 「どうしたの」 アイが聞くと、ヒサギは案外あっさりと答えま
アイの部屋に紙芝居フェレットがやってきました。 紙芝居フェレットはたくさんいて、ワールドザワールドの町や村にそれぞれ派遣されます。筆の女神の家から遣わされるわけです。 それで筆の女神は、特殊電波意識という特有の技を使って散らばった全部のフェレットを同時に操るのです。神憑り的に筆の女神の電波意識を受信したフェレットは筆の女神に同期して、同時に口を動かし、筆の女神の声を出します。それに合わせて、さらさらと紙をめくってゆくのです。 アイはあぐらをかいて、その上にうさぎを座らせ
その子はいつものように河原で石を積み上げています。芸術品のように積み上がった石の塔……。 そして大人が来て、蹴散らすのです。 その子の名前はバベル。 彼は石を積み上げることが何よりも好きでした。 だから朝、父親から「仕事の手伝いをしろ」と言われるよりも早くに家を出て、河原へ行くと、そこで一日中石を積み上げるのです。 彼は平べったいパンケーキのような形の石を拾いました。 そしてそれを横にではなく縦にして、さっきまで積み上げていた石の塔の上に、見事に重心を見つけて積み上げた
「いやあ、しかし、最近暖かくなってきましたねえ」 と豚が言った。 ずずずっとコーヒーをすする。 「そうだね。よく服が乾くようになってきた」 とアイはビスケットをひとつまみ。 椅子の背に腕を回して、背景の遠くを眺めた。 昼の陽光に山脈がきらきらと緑に輝く。 「私にとってはね、草が増えてありがたいよ」 「そうだよね。春はいいねえ。楽しいことも増えるんだ。蝶々を追いかけたり……追いかけ……おい……お……おお、おいかけ……ん? ん? ……ああ!」 アイが思い出して椅子から飛び
入り口から、朝の明るさがななめに入ります。 木の床を、白く反射させています。 光に、ちらちらと、舞う砂が輝きます。 ここはアイの住居。 アイはワールドザワールドのシンボルともいえる、町をでて、川を越えて、丘陵を登ったさきにそびえる巨大樹の、太い根元にあるほら穴に住んでいます。 樹が巨大なら、根も巨大です。 その根が浮かんで地面とできた隙間に、木の板をはめこんで作ったのがアイの部屋です。 出入り口には扉はありません。ついこの前壊れたので外しました。窓は一つだけあります。
今日は二人で野原へやってきました。 みごとな快晴です。 空高く風が吹きます。 アイとクァシンは幽霊女神に相談があるからとここに呼ばれたのですが、彼女は待っても待っても、幽霊女神はなかなか来ません。 退屈した二人は、遊んで待つことにしました。 アイが持ってきたボールでキャッチボールをすることにしたのです。 いくらかキャッチボールは続いたけれど、それにも飽きました。 すると突然、アイが面白いことを思いついたとクァシンに提案したのです。 「アイが犬になるから、クァシンが投
ある日の夕方のことです。 シヨク=ガヨクが町を歩いていると、ぞろぞろとダンボールが寄せ集まってきました。 「な、なんだ。おまえら」 ダンボールの軍団は、なんの合図もなしに一斉にシヨク=ガヨクに襲い掛かったのです。 ~📦~📦~📦~ 【シヨク=ガヨクが襲われた。】 そんなニュースが飛び込んできました。 アイは木の枝の上でキスをするやら、体をこすりつけあっている雀の夫婦から、そのニュースを聞きました。もちろんアイは、聞くやいなや家を飛び出しました。 いくらいたずらもので、
クァシンは白髪の天使のような男の子です。 おじいさんとおばあさんと暮らしています。 今日も家で読書をしていると、アイが扉を開けて元気にやってきました。 「ねえ、見て」 とアイは泥で汚れた手を突き出してあるものをテーブルの上におきました。 クァシンは本を閉じ、それを見てみると、それはとても不思議なものでした。 「砂時計……」 そう、それは砂時計でしか。でもただの砂時計ではありません。そのことにクァシンはすぐに気付きました。クァシンは無言のまま砂時計をひっくり返しました。そ