「北欧のシリコンバレー」起業休暇6カ月、会社設立7日? スウェーデンの魅力【ポッドキャスト番組『グローバル・インサイト』文字起こし】
海外のトレンド、若者の間で生まれる新しい価値観を、各国で暮らす編集者・ライターがお届けするポッドキャスト番組『グローバル・インサイト』。この番組ではリスナーからの反響が大きかった人気エピソードの文字起こしをnoteで配信しています。
今回は『「北欧のシリコンバレー」起業休暇6カ月、会社設立7日? スウェーデンの魅力』の回を文字起こししました。
新進気鋭のスタートアップが近年次々と誕生している北欧。中でも「スウェーデン」の躍進は著しく、首都ストックホルムは一人当たりのユニコーン企業数が米シリコンバレーに続いて世界2位、『Forbes』の「Best Countries for Business」でもイギリスに次いで2位をマークするなど、存在感に磨きをかけています。
スウェーデンから有望なスタートアップが生まれる理由、中でも今最も注目すべきスタートアップをご紹介します(出演:岡徳之 / 写真:Jonathan Brinkhorst on Unsplash)。
「北欧のシリコンバレー」の理由
このポッドキャストでは、「北欧」について何度も取り上げていますが、そんな北欧諸国の中でも、「北欧のシリコンバレー」と呼ばれる国を、みなさんご存知でしょうか?
ヒントは、その国の首都は、居住する人一人当たりのユニコーン企業の数が、シリコンバレーに続いて世界2位。ビジネス誌『Forbes』の調査「Best Countries for Business」でも、イギリスに次いで2位をマークした国です。
正解は・・・「スウェーデン」。
スウェーデン発の企業といえば、音楽ストリーミングサービスの「Spotify」や、マインクラフトを開発したゲーム会社「Mojang」が有名ですね。
では、なぜスウェーデンから有望なスタートアップが輩出されるのか、というと、その理由の一つは、「政府による積極的なサポート」が大きいそうなんです。
例えば、「産業イノベーション省」という省庁がありまして、そこは企業、スタートアップ、教育機関の三者を連携したエコシステムを構築することで、スタートアップの育成環境の整備に力を入れています。
それだけではありません。ユニークなのは、会社に勤めながらも起業準備ができる「休暇制度」が国によって設置されているんです。
いわば「起業休暇」「スタートアップ休暇」ということになるんですが、スウェーデン政府は「起業するための休暇をとる権利」というのを認め、最長6カ月まで休暇が取得できるようになっているんです。
さらに、起業手続きもシンプルかつスピーディーで、企業登録庁のサイトからオンラインで申請し、指定された金額を振り込めば、たったの「7日」で会社設立が完了。
そうした、物理的、心理的ハードルの低さが、多くのスウェーデン人を起業へと向かわせる理由の一つと言われています。
スウェーデンの最新ユニコーン企業
そんなスウェーデンから近年、2つのユニコーン企業が生まれています。ユニコーン企業というのは、評価額が10億ドル以上、未上場のスタートアップ企業のことです。
一つが、クリーンテックスタートアップ「Northvolt」。
2016年に、あのテスラの元幹部らが設立した電気自動車用のバッテリー製造会社で、起業からわずか3年で評価額20億ドルのユニコーン企業に成長しました。
スウェーデン北部の街に100%クリーンエネルギーを動力源としたリチウム電池プラントを建設し、バッテリーセルの組み立て、使用済み電池のリサイクルなどを行っています。
将来的には、ヨーロッパ最大級のバッテリープラントになることは間違いないと言われていて、世界中のクリーンエネルギー市場から、注目を集めているんです。
もう一つのユニコーンが、フィンテックスタートアップ「Klarna」。
いわゆる「後払いサービス」を提供しています。提携するEコマースサイトの支払いページに「クラーナ」のオプションがあり、ユーザーがこれを選ぶと後払いで商品を購入できるという仕組みです。
これまでにH&M、Levi’s、Sephoraのような人気ブランドとも提携していて、アメリカやオーストラリアでもサービスを開始。現時点で評価額55億ドル、ヨーロッパで最も価値あるスタートアップの一つに成長しているんです。
これから要注目のスタートアップ4選
この2つは、すでにビジネスとして成功しつつある企業ですが、このほかにもアイデアがユニークで、要注目のスタートアップをいくつかご紹介。
例えば、フードロス=食品の廃棄に悩むレストランと、余った食材を求める人をつなげるマッチングアプリ「Karma」。
これによりユーザーは、レストランの余った食材をアプリで確認して、通常の半値以下で購入することができるんだそう。ありがたいですね。
物流業界では、「完全電動トラック」で環境問題に挑む「Volta Trucks」というスタートアップも。
二酸化炭素排出量ゼロ、騒音も50%カットでありながら、スタイリッシュなデザインのエコトラック。主に都市部での貨物輸送や配達を目的としています。
陸だけでなく「空」でも。電気飛行機の製造に取り組む「Heart Aerospace」。
400kmの飛行が可能な、19人乗りで、従来のガソリンを使わない、サステナブルな次世代型航空機として期待されています。2025年までの商用化が目標です。
さらに「医療」の分野でも。
オンライン診療サービスのアプリ「KRY」では、24時間、いつでも画面上で医師の対面診療を受けることができ、処方箋も発行してもらえます。2015年の創業以来、すでに140万回を超えるオンライン診療が行われました。
と、このように、バッテリーに、フィンテックに、食品、物流、医療と、そこで起こる「イノベーションの幅」というものも、スウェーデンの強みかも知れません。
日本にも「起業休暇」、あるといいなあ・・・なんて思うんですが、「北欧のシリコンバレー」、スウェーデンのテックシーン、今後ますます注目です。
編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』。
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