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「読者の顔が見える」初めて有料記事にお金を払ってもらえて気づいたこと

noteで公開した有料記事を購読してくれた読者が現れ、編集者としてのキャリアで初めて「読者から直接コンテンツに課金してもらう」ということを経験した。その日の心境と気づきを忘れないうちに書きとめておきたいと思う(写真:Glenn Carstens-Peters on Unsplash)。

有料記事を書くのはずっとためらっていた

昨日、オランダでマイホームを購入した一部始終を明かした記事をnoteで有料(150円)で公開した。今朝起きてメールを確認すると、それに課金して購読してくれた人がいるという。

これまで僕は仕事で、メディアや事業会社から、一つの記事コンテンツにつき、数万円、十数万円というお金をいただいて、企画・執筆をしてきたが、「150円」というお金にこんなにも重みを感じたことはなかった

「記事コンテンツにもお金を払う時代がやってきた」。よくそう言われるし、海外メディアではサブスクモデルが浸透し、僕自身も著名人のメルマガを購読したことがあったので、実際にそういう時代は来ているとは思う。

だけど、どこまでいっても自分で有料記事を書こうというところまでは、自分ゴトには至らなかったというか、躊躇していた

「有料にするということは、それだけ読者の数が少なくなるということ」
「僕自身、記事コンテンツに課金したことはそこまでないのに、自分のブログにだれかが課金してくれるだなんて」
「読者からお金をもらえるのはうれしいけど、単価は低い。お金を稼ぐのはクライアントワークにして、ブログはただの趣味くらいがちょうどいい」

そんなふうに感じていた。

なぜ、「有料記事を書く」覚悟が決まったか

それでもーー「書いてみようよ」。その考えは頻繁に頭に浮かび、これまでと変わらない仕事を続けていることへのモヤモヤも積もってきていた。

それが今回、「有料記事を書く」という行動につながったのはなぜか?

まず、無料で多くの読者にコンテンツを届けるということについて、ここ数年で少しやり切った思いがあったのだと思う。一つの記事で数万人、数十万人、多いときは100万人以上の読者に読んでもらえた。

もう一つ、ポッドキャストを始めたことも影響していると思う。

僕が運営しているポッドキャスト番組グローバル・インサイトは、Spotifyのフォロワーが2300名超と、文字・動画メディアのそれと比べれば規模は大きくない。それでも、リスナーとTwitterで交流を重ねるなかで、数よりも読者とのつながり、その熱量を追い求めることの楽しさに気づけた。

これほどまでに一人ひとりがフォローしている人、メディアが異なり、みんながそれぞれ違う情報にふれている状況においては、より多くの読者に読んでもらうことと同じかそれ以上に、「本当にその情報を必要としている人に届けることが大切」だと思えるようになった。

「150円の重み」で芽生えた、読者への想像力

それでも・・・「自分が書いたただのブログ記事にお金を払う人なんていない」という思いは、結局消えなかった。それは、今でもそう。だけどそのまま、緊張しながら公開ボタンを押して、寝た。

そして今朝、話は冒頭に戻るが、起きたら「読者から課金された」というメールが・・・。思わず「うわっ」という声が出た。

「だれがお金を払ってくれたんだろう」
「本当に面白いかどうかも分からないのに、お金を払ってくれたんだよな」
「お金を払うとき、わざわざクレジットカードを引っぱり出してきて、情報を入力したりしたのかな」
「150円払ってよかったと思ってもらえただろうか・・・」

そこから気になったのは、やはり「だれが買ってくれたんだろう」ということだった。

「お金を払うということは、それだけなにかに悩んでいたり、答えを探していたりしたんだろうか」
「(今回の記事でいえば)オランダへの移住や海外でのマイホーム購入を考えているのかな」
「記事で悩みは解決できただろうか。ほかにはどんなことに悩んでいるんだろう。なにか力になれることはないかな・・・」

「読者の顔が見える」喜びと今後について

コンテンツ課金、サブスクモデル、ニュースレターのような、最近のメディアトレンドの文脈でよく語られるのは、「コンテンツの作り手の顔が見えること」の重要性だ。

しかし、今回、有料記事づくりに挑戦して初めて気づいたのは「読者の顔が見えること」の価値だった。

「どんな人が記事に興味を持ってくれたのか」「どんな情報発信を自分に求めてくれているのか」への手ごたえ、また、コンテンツの作り手として何度も味わいたくなるようなやりがいも感じた。

それに、「読者はほかにどんなことに悩んでいるのか」「なにかもっと力になれることはないか」と、読者と記事という「点」ではなく、「線」の交流をしてみたいとも感じた。これはこれまでの「人に気づきを与えたい」には収まらない、新たな欲求に思える。

今、文字メディアにかぎらず、いろんなところで「クリエイター・エコノミー」、つまり、コンテンツクリエイターの収益化のための環境整備に関する動きが起こっている。

しかし、やはり「読者から直接課金してもらえる」というのは、広告収入や企業案件とは異次元のやりがいを感じられる仕事の仕方だと思った。そして、「直接課金される」というのは、自分が生み出すコンテンツに対してより厳しい水準を求めることにつながる気もした。

この場を借りて・・・ 読者の方、ありがとうございました。僕にとって、あとで振り返ったとき、なにか転機になりそうな予感がしています。これからも、コンテンツづくりの試行錯誤を続けていきたいと思います。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』。


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