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現在、執筆中の作品は『織姫の継承ー祖母の機から紡ぐ一宮の未来』です。一宮は繊維の町として知られ、一宮七夕祭りも盛大に行われます。この織物と祭りの関係から着想を得て創作しています。
愛知県一宮市に住む佐藤真央は、幼い頃から祖母・つね子の影響で織物に深い愛着を持っていた。 つね子から織物の技術と精神を受け継いだ真央は、真清田神社に祀られる織物の神様・萬幡豊秋津師比売命にまつわる伝承も教わり、織物への思いを強くしていく。 大学卒業後、真央は一宮市役所の織物振興課に就職する。 そこで幼馴染の篠崎健太と再会し、二人で一宮の織物の未来を切り開く決意をする。 大型ショッピングモールの進出により衰退しつつある商店街や織物産業を再興させるため、二人は力を合わせて
真央の幼少期の思い出 真央が物心ついた頃から、祖母の佐藤つね子は常に織物に携わっていた。 古い機織り機の前に座るつね子の姿は、真央の心に強く焼き付いている。 「おばあちゃん、どうしてそんなに織物が好きなの?」 幼い真央が不思議そうに尋ねると、つね子は優しく微笑み、真央を膝の上に乗せて語り始めた。 「真央ちゃん、織物は命を吹き込む仕事なのよ。一本一本の糸に想いを込めて、模様を織り込むたびに、そこにはかけがえのない物語が宿るの。」 真央はつね子の言葉の意味を
祖母から聞いた織物の神にまつわる伝承 真央が少し大きくなった頃、つね子は真央を神社に連れて行った。 境内に鎮座する真清田神社は、織物の神様・萬幡豊秋津師比売命を祀る由緒ある神社だ。 「真央ちゃん、今日は一宮のお話をしてあげるわね」 二人が参道を歩きながら、つね子が語り始める。 「この辺りは、むかしから織物が盛んだったのよ。 それもそのはず、一宮のお守り神様は織物の神様なのだから」 「織物の神様?」真央が目を丸くしてつね子を見上げた。 「そうよ。萬幡豊秋
祖母の着物に魅了される真央 放課後につね子の家を訪ねては、織物作りを手伝うのが日課になっていた。 「ただいま、おばあちゃん」 「お帰り、真央ちゃん。今日は学校、どうだった?」 そう言いながら織機から顔を上げるつね子に、真央は笑顔で答える。 「うん、楽しかったよ。放課後が待ち遠しくてね、早くおばあちゃんのところに来たくて」 「まあ、そんなに楽しみにしてくれていたの? 嬉しいわ」 つね子は機嫌良さそうに微笑むと、真央を自分の隣へと招き入れた。 「今
真央の学生時代の織物体験 高校に進学した真央は、地元の織物会社が主催する織物教室に通い始めた。 本格的な織物の技術を学べる環境に、真央は胸を躍らせていた。 教室に足を踏み入れた真央は、整然と並ぶ織機に目を見張った。 糸を操る職人たちの真剣な眼差しと、規則正しく繰り返される杼の音が交錯する光景に、真央は圧倒される。 「新入生の佐藤真央です。織物を学ばせていただきます、よろしくお願いします」 真央が頭を下げると、講師の吉田亜希子が暖かい笑顔で迎えた。 「佐
織物の技法に魅了される 織物教室に通い始めて数ヶ月が経った頃、真央は様々な織物の技法に魅了されるようになっていた。 古来から伝わる織りの技の数々は、真央の創造力を大いに刺激した。 ある日、吉田が風通織の制作工程を実演した。 真央は、経糸と緯糸が織りなす繊細な文様の美しさに息を呑んだ。 「佐藤さん、風通織の魅力って特別だと思わない?」実演を終えた吉田が、真央に語りかける。 「はい、本当にため息が出るほど美しいです…」 「風通織は、高度な技術と忍耐が必要
伝統を守るプロジェクトの提案 織物教室に通って一年が経った頃、真央は伝統を守るプロジェクトを提案するようになっていた。 一宮の織物の価値を、もっと広く伝えていきたい。 そんな思いが、真央の中で日増しに強くなっていた。 教室の仲間を集めた真央は、熱心に語りかけた。 「一宮の織物の伝統を、みんなで守っていきませんか?」 「でも、具体的にはどうするつもり?」友人の一人が問いかける。 「まずは、一宮の織物の魅力を知ってもらうための、イベントを企画したいの」
市役所での健太との再会 真央が夢に描いていた織物の世界。 その実現のため、真央は大学卒業後、一宮市役所に就職した。 伝統産業の振興を担当する部署への配属を希望し、見事にその夢をかなえたのだ。 市役所での仕事に意欲を燃やす真央。 しかしある日の出来事が、彼女の人生を大きく変えることになった。 織物関連の企業との打ち合わせのため、会議室に向かう真央。 ふと視線を感じて振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。 「真央…?」 「健太君…!」
健太の共感と協力の申し出 会議を終えた真央は、そわそわと落ち着かない。 約束の時間が近づくにつれ、期待と不安が入り混じる。 (健太君は、私の話を理解してくれるだろうか…) 思い悩む真央の前に、健太が現れた。 「待たせたね、真央」 「ううん、私も今来たところだから」 照れくさそうに微笑み合う二人。そして、近くの公園へと向かった。 ベンチに腰掛けた真央は、おずおずと切り出した。 「ねえ健太君、覚えてる? 昔、将来は二人で織物の世界で活躍しようって、
新たなパートナーシップの始まり 健太との再会から数日後、真央は市役所の会議室で健太と向き合っていた。 二人で一宮の織物の未来について、熱心に語り合っているのだ。 「一宮の織物の魅力を、もっと広く発信していく必要があるよね」 健太が真剣な眼差しで提案する。 「うん。私も外部の人たちに、もっと一宮の良さを知ってもらいたいの」 「じゃあ、定期的に織物教室を開くのはどうだろう。参加者に技術を伝えつつ、織物の素晴らしさを感じてもらえるはずだ」 「いいね、その案。
緊張の朝 七夕まつりの当日。 真央は祖母の形見の浴衣に身を包み、鏡の前に立っていた。 鮮やかな朱色の地に、金糸で織り出された鳳凰の舞。 その美しさに、真央は我知らず息を呑む。 「おばあちゃん…今日は絶対に成功させるからね」 真央は心の中で、亡き祖母に語りかけた。 御衣奉献大行列は、織姫の衣装を真清田神社に奉納する、七夕まつりの目玉行事なのだ。 その中で真央は、一宮の伝統工芸品を纏い、行列の先頭を歩くことになっている。 「佐藤さん、もうすぐ出