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映画感想文 映画『東京物語』における原節子の立ち位置

 監督の小津安二郎は、日本的な物を愛する人間である。そして代表作『東京物語』では、古き日本の代表として尾道が描かれ、新しい日本の代表として東京が描かれている。尾道人を代表する人間としては、尾道に住んでいる父親、母親と次女が描かれ、東京人を代表をする人間として長男、長女が描かれる。では肝心の主演の原節子(次男の嫁)はどちらかというと、どちらでもない、ふたつの中間である。ふたつの中間で迷いながら、また、ふたつの顔を時に応じて使い分けている。まだ若いし、東京に住んでいるということを考えれば、東京人であって不思議はないのだが、夫を戦争で亡くしているということもあってか、古い日本へのこだわりが捨てきれないでいる。親たちには優しく、兄、姉たちに対しても、当たり障りのない付き合いをしている。それを原節子自身は「私はずるいんです」と自己批判する。しかし、望む、望まざるに拘わらず、いずれ新しい日本、つまり東京式のスタイルに流されていってしまうんだろうという覚悟はできている。
 そして、尾道で義母の葬式を終えた原節子は、上りの列車に乗って東京へと帰っていく。少し憂鬱そうな顔をして・・・。

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