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読書感想文『蟹工船』 小林多喜二と博愛丸

 『蟹工船』というプロレタリア文学の名作がある。数年前ワーキングプアが社会問題になった時に、突如として話題になった。当時と状況が似ているということなのだろうが、『蟹工船』が発表された1929(昭和4)年とは世界恐慌の起こった年で、労働者の悲惨さは現代とは比較にならない。小説では、資本家の横暴がこれでもかという感じで描かれている。
 この小説にはモデルになった事件がある。1926(昭和1)年に起こった博愛丸(皮肉な名前である。小説では博光丸)事件である。林兼商店(現マルハニチロ)所有の博愛丸で起きた労働者虐待を取材した小林多喜二が小説として発表した。4年後に多喜二は特高による拷問を受けて死亡する。社会主義者、共産主義者は、転向しない限り、安穏と生きる道はなかった。
 博愛丸は元々、病院船としてスタートした。その後、蟹工船となり、最後は軍隊で輸送船として使われ、アメリカ軍によって撃沈された。
 小林多喜二と博愛丸、ともに資本主義と軍国主義の横暴に振り回された一生であった。

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