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風と窓、旅と本のある暮らし。

窓には、風が含まれている。そんなことをふと思った。

英語の「Window」という単語の中には、「Wind」が入っているのである。

こういった言葉の由来などが気になると調べてみたくなるタチで、ググってみたところどうやら古北欧語で "風の目"(vindr+auga)というのが「Window」の語源らしい。

何がきっかけでその発想が浮かんできたのかは思い出せないが、「おお、それって何だか素敵だな」と静かに感動したのは、このまちに引越してきたつい最近のことだ。

いま僕が住んでいる部屋の外には、道路に面した窓がある。

「はなれマド」と呼ばれる、ひと部屋にひとつ割り当てられた窓。
そこでは住民が自らの活動を表現したり、ちょっとした小商いができるように設られている。

ヤドカリレジデンス、通称YADORESI (ヤドレジ)。

まちづくりやトレーラーハウスなどを通じてこれからの暮らしや働き方を発信する「YADOKARI」が手掛けるシェアハウスだ。

横浜市保土ヶ谷区、相鉄線の天王町〜星川駅の高架下施設「星天qlay」で、"生きかたを遊ぶ住まい"と称して2023年4月にオープンしたばかりである。

目まぐるしく回る日常の中で、|---余白---| を大切にしたり、あえて無駄や変化を楽しんだり。そういった遊びこそが本当の意味で、暮らしや人生を豊かにする。挑戦や自己表現、様々なコミュニケーションを通して自身の変化を楽しもう。きっとあなたもまだ知らない、新しい自分に出会える場所。

YADORESI ホームページより

ここ2年ほど僕は「HafH」という宿泊サブスクを使いながら、自分の家を持ちつつ月の約半分をゲストハウスやホテルで過ごす「半分多拠点生活」を送ってきた。
詳細については当時のnoteに書いてあるので、良かったらご覧頂ければと思う。

そんな生活をしばらく続けてきたが、借りていた部屋の契約更新や僕自身の退職というタイミングもあり、新しい生活をはじめてみたい気持ちが沸々と湧いてきていた。

「地に足をつけて」暮らしてみたくなった、というのが一番感覚としては近いかもしれない。

約2年間のプチ移動生活はとても楽しかった。新しい拠点に行けば、いつでも気軽に旅気分が味わえる。一方で馴染みの拠点に行けば、それなりに「帰ってきた」という感情も湧く。我ながら良いとこ取りのライフスタイルだったと思う。

ただここしばらくは、「移動する暮らし」というスタイルそのものに慣れてしまっている自分がいた。
そして、これまで外へ、外へと向いていた中で疎かにしてしまったもの(正直な話、健康が大部分を占める)を見つめ直す必要を感じ始めていた。

逆説的だが「定住してみる」ということが、今の僕にとってはある種の"旅"という行為だったのである。

"旅"とは、単に移動することではなく、目に映る景色や人が変わること。「いつもの自分」をはみ出してみること。

そして同時に"旅"とは、「出る」だけでなく「帰ってくる」こと。これまでの足跡、轍、記憶に、過去に意味を見出していくこと。

そんな折に見つけたYADORESIは、移動生活に一旦の区切りをつけながらも新しい暮らし方に挑戦できる、おあつらえ向きの住まいだった。

……しかしつくづく、小難しく格好つけて文章を書きたがるのは僕の悪い癖だと思う。
早い話、シンプルに「この辺が潮時かな」と思ったのだ。言ってしまえば気分転換である。

ちなみに余談だが、「景色を変える」を直訳した Change the scenery には「気分転換」という意味もあるそうだ。


近頃は朝6時半に起きている。起床してまず最初にすることは、窓を開けることだ。

今年の夏は極めて暑い日が続いているが、意外と朝の風は涼しいものである。吹き抜けるそれを皮膚に感じながら深呼吸をすると、部屋や身体の中に溜まっていた澱が吹き飛ばされていくようで気分が良い。
ただ冬になったらちょっとしんどいかもな、と寒さにすこぶる弱い自分は今から心配になる。

共用リビングの窓も開けて、空気の入れ替えをしながら朝ごはん。

とは言っても、シリアルに牛乳をかけたりトーストを焼く程度。
でも移動生活時はよく朝食を抜いていたので、僕からすればこれでも進歩なのだ。お湯を沸かして珈琲でもプラスすれば、さらに良い感じに幸福度ゲージが上がる。
比べるのはいつだって、他人ではなく過去の自分がいい。

それから窓辺に椅子を出して、30分から1時間ほど読書タイム。

少し前まで「本を読みたくてもなかなか時間がない」と思っていたけれど、最近ではそんなこともすっかりなくなった。
あまりにも暑いと内側に退散するが、風に撫でられながらページを捲るこの時間が、何よりも楽しみまである。

住まいながら自身の生業を表現できるという「はなれマド」のコンセプトを聞いて、本を並べてみたいなとすぐに思った。

実は自分の家を持つ「半分多拠点生活」の最中、1ヶ月ほど完全にゲストハウスのドミトリーに住んでいたこともある。

しばらく色んな物事から離れてみると、自分にとって本当に大切なことや優先順位がみえてくるものだ。その中で僕にとって本は、自分でも意外なほど強い愛着のあるモノらしかった。

「いつも読みたい」というわけではないのだけれど、「いつでも読める」という環境が、僕にとってはことのほか大きな意味を持っていたのだ。

僕は、"旅"を感じる本が好きだ。

それは、どこか遠い国や地域の旅行記やエッセイだけに限らない。
いろんな人の「人生という旅」が垣間見えるような本。
いつもの視点をちょっとだけずらして、日常の素晴らしさに気づかせてくれる本。
今いる場所から半歩はみ出すための、ちょっとした勇気や好奇心をくれる本。
人と人が出会いその人生が重なることで何かが起きる、希望を感じさせてくれる本。

それらを並べた本棚を眺め、一冊一冊を手にとることも自分にとっての"旅"なんだなと、最近改めて気づかされた。「"旅"にいつでも触れられる状態」が、僕にとって大切だったのだということに。
そして同時に、それらの本を媒体にして、誰かと繋がったり言葉を交わしたりすることの喜びにも。

各地を放浪した旅人が、「今度は自分が迎え入れる側になりたい」とゲストハウスを開くことがある。
僕はいつか本屋さんがやりたいのかもしれないなと、かつて子どもの頃に描いていたような妄想を、この頃やけに真剣に考え始めている。

まだまだそのイメージに現実味は湧いていない。ひとまずは、この本棚のある窓を開きながら、このまちで何が起きるのかを楽しんでいくつもりだ。

毎週土曜の午前中は大体こんな感じで開いています。よければ遊びに来てください


「今週はどこに行こうか」と歩き回っていた日々は、つい数ヶ月前のはずだけどやけに懐かしく感じる。
いつも着替えとトラベルセットが入っていた相棒のバックパックは、今では随分とスリムになった。

自分自身が風のように飛び回ることは少なくなった。名残惜しくない、と言えば嘘になる。
でも、立ち止まっているから感じられる風、捉えられる風がきっとある。


どこに居たって、“旅”はできる。


今日も横浜のまちで、僕は暮らしながら"旅"を続けていきたい。地に足をつけて、窓を開けて。



まだ全然カタチになっていませんが、「旅×本×ラジオ」でこんなことをやろうかと計画中です。
少しでも面白そう!と思って頂けたらフォローしてもらえると嬉しいです!


現在YADORESIは入居者を募集中。一緒に“生きかたを遊ぶ”をやってみませんか?


……そういえば、文中に差し込んだ素敵な写真を撮ってくれた同居人の皆のことを全然書けていなかった。
彼らを紹介させて頂くタイミングは、また別の場所でありそうな気がするのでお楽しみに。

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