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職場で有効なメンタルヘルス対策の考え方や方法論について

日経産業新聞での連載を踏まえて、今回は「認知行動療法」と「職場のストレス対策」についての記事を紹介します。最近では関心が高まっているとは言え、カウンセリングやメンタルヘルス対策はまだビジネスの現場からは「遠い」ものと考えられがちです。そのギャップを埋めていくことは、私がいま目指していることの一つですが、そのきっかけとして正しい知識が広がっていくことが大切と考えています。


認知行動療法の有効性について

厚生労働省の調査によると、日本におけるうつ病の患者数は約128万人(2017年)に達している。また、それには「仕事のストレス」が大きく関係していると考えられている。

うつ病を始めとした精神疾患には、抗うつ剤などの薬物療法に加えて心理療法が有効であることは学術研究によって証明されており、その代表的な方法論の一つが認知行動療法だ。

認知行動療法は、アメリカの医学者、精神科医であるアーロン・ベックが開発した技法である。数多くの研究でその有用性が立証されており、薬物療法と同等かそれ以上の効果を持ち、うつ病と不安障害を始めとしてさまざまな精神疾患に対して有効であるとされている。

では、次にその詳細を見ていこう。認知行動療法は、対象者の「認知(考え方)」と「行動」に働きかけていくところに大きな特徴がある。うつ状態にある人は、ストレス状況に直面した時に、それを極端に否定的・悲観的に捉える傾向がある。例えば、顧客への提案に失敗した時に「私はなんて無能なんだろう」と絶望してしまうような思考が挙げられる。

認知行動療法ではこうしたストレス状況への反応を「認知」「感情」「行動」「身体反応」の4つに区分して考える。具体例で考えてみよう。
「締切が明日に迫った仕事が終わっていない」ストレス状況で、「もうおしまいだ(認知)」とそれを捉え、「絶望や不安(感情)」が湧き上がり、「心臓の鼓動(身体反応)」が高まってくる。結果として「机の前で呆然として何もできない(行動)」まま時間が過ぎていく。

認知行動療法は、このような非適応的な「認知」と状況回避的な「行動」の変容を目標とする。この状況では、締切までの時間を計算し「まだ時間はあるな」と考え、やるべき仕事を具体化し作業に取り掛かれば、絶望や不安を感じることなく作業を完遂できる。認知行動療法では、こうした「適応的な」認知と行動を身につけることを心理師がカウンセリングを通じて支援する。方法論が体系化・標準化され取り組みやすく、副作用もないことがそのメリットで、信頼できる心理療法として世界中に広がっていった。

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