40代からのキャリアを楽しむコツについて

経験の価値を再定義する重要性

日本は世界一の高齢化社会なのに、40代以降は「キャリアの墓場」的なネガティヴな論調をいまだに見るし、それが世間のイメージになってるのは良くないなと感じる。

年金をもらえるのは65歳からなので、冷静に考えると、40代というのはまだ折返し地点を過ぎただけ。まだ最低20年はキャリアが続くわけで、新卒からの時間と同じくらいの長さが残っているというのは、なかなか迫力のある事実。

ということで、40代以降を「黄昏」的に捉えるのはもったいないなと感じる。実際のところ、日本も労働市場は流動化してきているし、培った専門性や経験が活かせる場面も多い。多様な生き方に「開いていく」機会は増えているので。

最近新たなバズワードになりつつある「中高年のリスキリング」の文脈でも、おじさんが慣れないデジタルツールの使い方を学ぶ、みたいなカルチャースクール的なものが多いのが気になるところ。それよりも、それまでに得てきた実務上の経験や知見を、科学的な方法論も踏まえつつ体系的に整理しながら、より普遍的に展開するための技術を身につける、みたいな方がいいのではないかと思う。

ビジネス現場の暗黙知は奥が深いし、価値創造の源泉となっている場合が多い。私はアメリカ企業で10年以上働いていたけれど、そこで感じたアメリカの産業界の強さの一つは、そういった暗黙知に科学的な法則を見出し、体系化・標準化しながら実務に展開していける力。米企業はこうした体系化された知見を縦横に活用しながら事業を洗練下させていくことが非常に上手い。私も「中の人」として働きながら、ここは凄いなと思ったし、日本においても中高年が自分の価値を再定義する上でヒントになる。

欧米では年齢を問わず大学院に行く人が多いと感じるけど、その理由の一つは大学が、単に知識を身につけるというより、科学的に体系化された方法論に習熟できる場として捉えられているからなのではと思う。ここは重要なポイントで、ソフトウェアとの接点も、DXみたいな一過性のバズワードでなく、この文脈から捉えると有機的かつ本質的な繋がりが生まれてくるように感じる。

(参考)学位取得者の国際比較https://www.nistep.go.jp/sti_indicator/2020/RM295_34.html

リスキリングよりアンラーン

そして、もう一つの方向性としては、全く新しい方向に向かうこと。ちょうど五木寛之氏のインタビューで興味深いものがあった。

――人生100年時代、2回生きるようなイメージを持つことを勧めています。
「リスキリング(学び直し)がいま盛んに言われていますが、それよりも(自己の経験をリセットする)アンラーンこそ求められているのではないでしょうか。私も50歳前後のとき、休筆して京都の大学で仏教を学びました。そこで知ったのが(他人の助力を指す)『他力』。他者の欲求によって自分は書かされているのだという考え方です。自分が百八十度変わったように思います」

日本経済新聞

「リスキリングよりアンラーン」。これも40代以降のキャリアを考える上で、一つの示唆を与えてくれる考え方だと思う。

私も40代になった時に似たようなことを考えていた。外資系において経営陣を支える「参謀」的な役割で成果は出せていたけれど、このままの方向性ではどこかで壁にぶつかるような感じがしていた。

さらに、二人の娘の育児のことを考えると、今までのように朝から晩まで、それこそ寝ている時まで24時間仕事のことを考えて、仕事に全力でのめり込んでいく働き方は無理だなと思った。

こういったことを考えた結果、「これから20年以上続くキャリアの後半戦は、自分が本当にやりたいと思うことに長期で取り組もう」という方針が明確になったし、そのベースとなる心理学・臨床心理学の知見を基礎から学ぶために、放送大学の学部課程に入学した。

今のところこの方針はなかなかうまくいっていると感じている。「自分のやりたいことに長期で取り組む」ことを基本にしたことで、短期的な結果に一喜一憂することが減り、メンタルが安定するようになったし、何よりコツコツと自分が大切だと思うことに取り組むのはやりがいがあるし、とても楽しい。

さらに、学部課程から丁寧に心理学や臨床心理学の基礎を勉強することは新鮮な体験だし、まさに「アンラーン」していく喜びを感じる。そこで学んだことを通じて、ビジネスでの過去の経験や知識を別の視点から捉えなおすこともできるし、それがまた新たなアイディアや視座を生み出してくれるのも面白い。

つまり、「アンラーン」とは、自分の今までの経験を全て捨てることではなく、新しい視点からそれを捉えなおし、別の価値につなげていくことができるところにも価値があるのではないだろうか。自分でやってみながら、このプロセスはなかなか興味深いし、これを続けているとキャリア後半の20年を楽しめるように思っている。

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