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noriと川崎Midnight

久保田利伸の「夜に抱かれて」を口ずさみながら、鏡の前で、整髪料をベッタリと金髪に塗り込み、黒のスーツを着込む。「よし、今日もイケるぞ!」と叫び、川崎の夜へ向かう。大学2年生の夜だった。

川崎銀柳街のネオンを横切り、仲見世通りにある店に入る。私は新宿二丁目の出来事から半年後、学生ホストになった。

「川崎にホストクラブの新店が出来るからやってみないか」

大学の悪友に誘われたのがキッカケだった。指定された川崎日航ホテルのラウンジに面接に向かう。

短髪で髭を綺麗に整え、紫色のスーツを着た副代表のヒロキが私を出迎えた。

「お前がnoriか。気合い入った顔してんな!真面目に学生やってんのか?」

ヒロキは寿司職人の息子として修行するために地方から上京、今の代表に出会い、ホストに転身したという。今25歳だという。

「この世界は、実力が全てだ。力がある人間はのし上がり、ダメな奴は消えていく。お前のコトを教えてくれよ。いいか、お前の言葉で話してくれ」

ヒロキからは先ほどの笑みが消え、眼光鋭く、私を見つめた。

生い立ち、少年時代、嫌いな田舎を飛び出したくて上京してきたこと、今の上手くいかない苛立ち等、ヒロキに吐き出した。ヒロキは黙って、ガキだった私の話を真剣に聞いてくれた。

暫し沈黙が流れた。ヒロキは口を開いた。

「うちはな、本当は学生みたいな半端者は採用しねえ決まりになってる。ただよ、お前、面白そうだし、週3で学生ホストしてみっか?」

「はい!、お願いします!」

「本当はよ、お前みたいなマトモな奴が入る世界じゃないんだが、この経験は必ずどっかで役に立つ。これから見るもの、経験するもの、全部勉強だ。そう思ってがんばんな」

「じゃあ、3日後の夜21時にビッグエコーに来て」
私は採用された。ようやく私を認めてくれるオトナに出逢えた。本当に嬉しかった。

指定された時間にビッグエコーに到着した。
一番広いカラオケルームに通されると、既に幹部が12名、私を入れた新人ホストは20名が座っていた。部屋はぎゅうぎゅうで熱気に包まれていた。

「なんでこんな新人たくさんいるんだろ」

その意味は1ヶ月後に知ることになる。1ヶ月後に残った新人は私を入れて3人で、17人は飛んだのだ。

私はホストクラブにセイヤとして1年在籍した。いつしか同期はみんな消えた。

私が見て体験したホストの世界は壮絶だった。


ホストクラブ同士の抗争、客とのトラブル、路上での喧嘩、テレクラ営業、キャバ通い、客の奪い合い、ソープランドのお姐さんに苛められたこと、枕営業、ヤクザ、クスリ、血反吐吐くまで飲んだ酒、幹部に顔の形が変わるまでぶん殴られたこと、、、あまりに色々なことがあった。いやありすぎた。


大学三年生の春、私は学生ホストから学生に戻った。副代表のヒロキが朝から開店してる飲み屋でお別れ会を開いてくれた。

「セイヤ、今日からnoriか、お前、最初の言葉を覚えてるか?」

「忘れてないっすよ」

「がんばれ、お前なら出来る」

私は学生ホストを卒業し川崎の夜から足を洗った。ようやく私の中に自信らしき何かが芽生えた。

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