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noriと就活

「バカ野郎!!」

父親の怒鳴り声が鳴り響く。川崎の夜は卒業したが、自分が大学生ということを全く忘れていた。

大学2年終了時点で取得した単位は22単位しかなかった。そもそも試験すら受けに行かなかった。卒業に必要な単位は122単位だ。あと100足りない。

本当は留年しなきゃならない状況だったが、必修科目は落とさなかったので3年生に進級出来たのだ。

2年時の必修科目だった太っちょのマリリン先生の英語はまだ覚えてる。ひさしぶりに大学に行き、マリリンの授業に出た。テストはとっくに終わってた。マリリンは授業の冒頭、巨漢を揺さぶりながら、英語で激しくまくし立てた。

「noriっていう生徒がテストも受けずにいる。コイツはくそったれだ。私を舐めている。侮辱してる。絶対に単位やらない!」

翌週マリリンに英語で手紙を書いた。

「マリリン、悪かった。ただ俺は本当に優秀な生徒なんだ。一度だけチャンスをくれないか。もしテストを受けさせてくれたら、俺は満点を取る自信がある。もし取れたら単位をくれ。愛を込めてnori」

マリリンに「ラブレター」を手渡すと、ニヤリと笑い、首を縦に振った。私は遊んでたわけじゃない。川崎の夜間大学で学んだのだ。私は再試を受け、宣言通り満点を取り、マリリンの単位を取った。

私の両親は教員だった。あまりの息子の放蕩ぶりに業を煮やし、住んでるアパートを引き払うと言い出した。

「実家に帰って新幹線で大学に通うか、勘当されて自分一人で生きてくか、どっちか選べ」

所持金4万円。ホストには戻れない。選択の余地なく私は一人で生きていく力も自信もなく、田舎の実家に戻った。私の大学生活は川崎の夜間大学卒業から、1ヶ月を経つことなく、幕を閉じたのだ。

100単位を卒業までに取る生活が大学3年生から始まった。早朝起床、新幹線に飛び乗り、大学に着くや、朝から晩までびっちり授業を受け、終電の新幹線で実家に帰る生活をスタートした。実際、大学3年生からは勉強した記憶しかない。

いよいよ就活のシーズンとなった。料理人になりたかったが、調理師学校に行く金もなく却下。原点は実家から離れること、これが全てだった。

やりたいことなんかなかった。ある日大学の友達が一本の映画が収録されているビデオテープを渡した。

それが「ウォール街」だった。マイケルダグラス扮する投資家であるゴードンゲッコーとチャーリーシーンが演じた若手証券マンであるバドフォックスの話だ。私は悪役のゲッコーの魅力に取り付かれ、ビデオテープが擦りきれるまでゲッコーに夢中になった。

世の中は山一証券廃業による証券不況だった。私はゲッコーになるべく、某証券会社に入社した。

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