カミングアウトコンビニ #毎週ショートショートnote
その客は長い髪をかきあげ、僕に顔を寄せると、艷やかな声で「カレーパンひとつ」と囁いた。
突然のことにドギマギしながら僕は揚げたてのカレーパンをトングで紙袋の中に移し、それからトングの先でカレーパンに切れ目を入れた。
うちのコンビニ特製のカミングアウトカレーパンだ。
きっかけは中身が飛び出してしまった失敗作だった。それを買って食べたお客が家族にカミングアウトしたことがSNSで話題となり、これを食べると腹を割って話せるという都市伝説が生まれた。
この美女も誰にも言えない秘密を打ち明けるためにカレーパンに背中を押してもらいたいのだろう。
彼女は「ありがとう」と柔らかく微笑み、大事そうに紙袋を抱えて帰っていった。
翌日、一人の男が店に現れ、カレーパンを注文した。
紙袋を受け取ると、すぐさま切れ目から溢れる具をズルっと吸い上げ、熱さに顔をしかめた。
「うまい。もう一つ頂戴。彼氏に買って帰るからさ」
その微笑みに見覚えがあった。
きっと受け入れてくれたんでしょうね。
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