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ホンダが作った凄いエンジン

【稼ぐ経営者のための知的財産情報】

 弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
 今回は、「ホンダが作った凄いエンジン」をお伝えします。
※出願等のお問い合わせはこちらから http://www.sakaoka.jp/contact
 最初にお断りしておきますが、今回もマニアックな内容です 笑
 (参考 https://www.honda.co.jp/WGP/spcontents2016/50years/ )

1.ホンダのレース活動

 本田技研工業株式会社(ホンダ)は、世界的に見ても珍しく、二輪と四輪の両方でモータースポーツに参加しております。
 また、これらのロードレースにおける最高峰クラスである、MotoGP(二輪)とF1(四輪)でチャンピオンを獲得しております。

 ホンダは、これらのレース活動において、過去に常識を覆すようなエンジンを作ったことがあります。
 それは「楕円ピストン」です。
 今回は、この「楕円ピストン」について書いていきます。

実昭開59-60368号公報 【図1】¹
実昭開59-60368号公報 【図2】¹

 ちなみにホンダは、楕円ピストンを使ったNR500というクルマ(二輪車)で、1979年から1982年まで、GPレースに参戦していました。
 当時は、出力の大きな2ストロークエンジンが主流のなか、あえて4ストロークエンジンでの参戦でした。
 このクルマには、日本人初の世界チャンピオンとなった、片山敬済さんが乗られていましたね。

 残念ながら、世界GPでの勝利はありませんでした。
 しかし、NR500で培われた技術、例えば強烈なエンジンブレーキを抑制するバックトルクリミッターは、市販車にも採用されたと記憶しております。

2.なぜ楕円ピストンなのか

 普通、エンジンに使用されるピストンは円筒形をしています。

株式会社 亀有エンジンワークス HPより²

 なぜ、そこに楕円ピストンを採用しなければならなかったのか?
 ここの説明から入りますね。

(1)エンジンの出力を向上させるには
 レース活動ですから、クルマを速く走らせる必要があります。
 それには色々な要素がありますが、先ずは馬力が必要です。

 この馬力とは仕事量でありまして、エンジンの力そのものはトルクという数値で表わされます。
 係数などはあるものの、基本的に馬力は「トルク×エンジン回転数」の結果となります。

 もっとも、トルクもエンジンの回転数によって変動しまして、エンジン毎に異なる特定の回転数のときに最大トルクを発生します。
 最大トルクは、4ストロ-ク自然吸気エンジンの場合、排気量100ccあたり約1kgf・mとなります。

 エンジンの性能によって多少変動しますが、排気量あたりの最大トルクはあまり変わりません。
 つまり、理論上は同じ排気量ならば、エンジン回転数が高ければ高いほど馬力も大きくなるのです。

(2)エンジン回転数が上げられない理由
 とはいっても、エンジン回転数が高くなればなるほど摩擦損失や吸排気抵抗などが増えてきます。
 このため、エンジンは最高出力発生回転数というものがあり、それ以上回転数を上げても馬力が低下してしまいます。
 高回転になってくると、吸排気バルブの開閉が追いつかなくなるといった問題もあります。

 ピストンスピードも重要な要素です。
 エンジン回転数を上げると、往復するピストンスピードも速くなります。
 私が若い頃、ピストンの平均スピードは、1秒あたり25mくらいが限界といわれていました。
 それ以上にピストンスピードを上げると、潤滑のための油膜が切れてしまい、焼き付くなどのトラブルが発生してしまいます。
 コンロッドやクランクの耐久性も心配になってきますね。
 レース用エンジンではもう少しいけるかもしれませんが、大幅に向上するものでもなさそうです。

(3)エンジン回転数を上げるには
 上記の問題を解決してエンジン回転数を上げる方法として、例えば以下の方法があります。

・多気筒化
 機械的及び熱的な損失は別にして、各部品が小さな方が、慣性が小さくなって高回転に耐えられやすくなります。
 多気筒化は、特に吸排気バルブの追従性に大きな効果があると思われます。
 実際、1960年代に、ホンダはRC166(250cc、6気筒)やRC149(125cc、5気筒)といった、精密機械のようなクルマを作って参戦していました。
 当時、これらのクルマはかなり活躍したようです。

 しかし、その後に行われたレギュレーションの改定で、125ccは単気筒、250ccと350ccは2気筒まで、500ccは4気筒までに制限されてしまいます。
 つまり、多気筒化ができなくなってしまいます。

・ショートストローク化
 エンジンの排気量は、シリンダの内径(ボア)と、ピストンの往復距離(ストローク)で決まります。
 ボアを大きくしてストロークを短くすれば、吸排気バルブを大きくできて吸排気を素早く行えます。
 また、ピストンスピードも抑えられます。

 とはいっても、1気筒あたりの排気量が大きければ、ショートストローク化にも限界があります。

 余談ですが、このショートストローク化も、ボアが大きくなることで燃焼室面積が増えてしまい、熱損失が増大して燃費にはマイナスなんですね。
 だから、市販車であるN-BOXなんかのエンジンは、ロングストロークになっています。

3.楕円ピストンの効果

 上記の(3)で述べた多気筒化を、擬似的に実現したのが楕円ピストンなのです。
 特許公報の図を見てもらえると分かりますが、2気筒分のピストンがつながったような形状をしております。
 吸排気バルブも、通常は1気筒あたり4本までですが、この図では8本配置されるようになっています。
 点火プラグとコンロッドも1気筒あたり2本配置されています。
 ショートストローク化にも貢献できています。

特公昭63-6721号公報 【図1】³
特公昭63-6721号公報 【図3】³

 このように楕円ピストンを採用したエンジンは、気筒数は4気筒ですが、性能的には8気筒を実現しております。
 毎分2万回転くらい回すことができたそうです。
 凄いことを考えますね~。

 考えるのは良いのですが、実現するには課題がたくさんありそうです。
 過去に思い付いた人は居るかも知れませんが、課題の解決が難しかったのではと思います。

 素人の私が思い付くだけで、加工はどうやってするのか、熱膨張によってピストンがいびつな形状になる対策はどうするのか、ピストンリングは熱膨張したときにきちんと張力を保てるのか、クランクとコンロッドの寸法誤差や捻れによるピストンの傾きはどうするのか、、、など疑問がたくさん出てきます。

4.楕円ピストンの特許

 上記の課題などを解決するために、楕円ピストンに関する特許がけっこう出されていました。
 私が簡単に見ただけで、本田技研工業が出願している楕円ピストンに関する特許出願、実用新案登録出願は60件くらいありました。

 それだけ、開発に苦労したのだろうと思われます。

 中小企業では、ここまでの開発はリソース的に厳しいと思います。
 しかし、楕円ピストンは、コロンブスの卵的な発想から、世界が驚くような発明ができるというよい見本だと思います。

 皆さまも、何かコロンブスの卵的なものを思い付いていませんか?

 この記事が御社の発展に寄与することを願っております。

引用
¹ホンダ技研工業株式会社.内燃機関用ピストン.実昭開59-60368号.
²株式会社 亀有エンジンワークス ウエブサイト
³ホンダ技研工業株式会社.内燃機関.特公昭63-6721号.

坂岡特許事務所 弁理士 坂岡範穗(さかおかのりお)
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