ビジネスモデル特許で他社の参入時期を遅らせる

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 弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
 今回は、「ビジネスモデル特許で他社の参入を遅らせる」について説明します。

 先ずは、ビジネスモデル特許について説明します。
 そもそも、ビジネスモデル自体は人為的な取り決めであり、発明には該当しません。
 つまり、こういった商売の方法を考えたから、それを特許で保護したいといっても無理なのです。

 では、どうやってビジネスモデル特許を成立させるかと言いますと、ハードウエアを用いてそのビジネスモデルを実現させると、発明になるのです。
 一般的には、このハードウエアにコンピュータや情報通信技術を用います。

 このビジネスモデル特許、2000年に出願ブームが起きました。
 ところが、当初はこのハードウエアを用いて具現化するということがなされていない出願もあり、特許査定率は約10%しかありませんでした。

 しかし、段々と特許査定率も上がってきて、現在は他の分野の出願同様に60~70%となっているようです。

 但し、注意点もあります。
 このビジネスモデル特許、実際に構築しなくても机上の考えだけで出願できます。
 このため、既に多くの出願がなされており、似たような出願が高い確率で過去にあるのです。
 これにより、権利範囲を広くしても拒絶査定となりやすく、特許にするにはかなり尖った狭い範囲で攻める必要があります。

 とはいっても、特許請求の範囲には複数の請求項が記載できます。
 そして、請求項1には最も広い権利範囲を記載して、下位の請求項になるに従い次第に狭い権利範囲を記載することが一般的です。

 さらに、補正の時期にもよりますが、基本的には出願当初の明細書に書いてあることならば、後でそれを請求項に足して補正することもできます。
 また、補正の時期を逃しても、分割出願という手もあります。

 つまり、請求項1には、特許になるはずもない広い範囲の権利を記載して、他人をけん制することも可能なのです。

 これをうまく使ったと思われるのが、いきなりステーキ、株式会社ペッパーフードサービスの特許です(坂岡の私見です)。

 この特許、特願2014-115682で平成26年に出願され、平成28年に特許査定されます。
 しかし、その後に異議申し立てがあって、平成29年に取消理由が通知されました。
 これに対し、株式会社ペッパーフードサービスが知財高裁に訴訟を提起して、平成30年12月に特許が維持されることになりました。

 この株式会社ペッパーフードサービスの出願当初の請求項1を記載します。
【請求項1】
 お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むことを特徴とする、ステーキの提供方法。

 読んでみて、これなに?状態です。
 人為的な取り決めだけが記載されていて、ハードウエアもなにも使っていないですよ。
 さすがに請求項1では特許になりそうもないのですが、明細書には「札」「オーダー票」「シール」などの、一応はハードウエアといえなくもない構成が記載されています。
 すると、現時点では特許になりそうもないけれど、将来的には何かの構成を付加して特許になるかも知れない、という状態になります。

 結果的に、特許が維持されたときには、この出願の請求項1は以下のようになりました。
 太字部分が出願当初から追加された箇所です。
【請求項1】
お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと,お客様からステーキの量を伺うステップと,伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと,カットした肉を焼くステップと,焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって,上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と,上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と,上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え,上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと,上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする,ステーキの提供システム。

 これならば、工夫すれば特許の権利範囲を回避できそうです。
 しかし、これは特許の権利範囲が決着したからいえるのであって、それまではどうなるかわかりません。
 すると、他社が類似の事業で参入するのを防止する効果が、多少なりともあったのではと思われます。

 以下に、特許の経過と競業他社の参入時期を記載してみます。
平成26年6月 特許出願
    平成27年2月 「やっぱりステーキ1st」オープン
平成28年5月 特許査定
平成28年11月 異議申立て
平成29年8月 取消理由通知
平成29年9月 訂正請求書(権利範囲を狭くする訂正)
平成29年11月 特許の取消決定 その後、知財高裁へ提訴
    平成30年4月 「アッ!そうだステーキ」オープン
    平成30年5月 「カミナリステーキ」オープン
平成30年10月 知財高裁で特許庁の取消決定が取り消された
平成30年12月 特許の権利範囲が確定
    平成31年1月 「やっぱりあさくま」オープン
    平成31年3月 「ステーキ屋松」オープン

 これらを見てみると、「やっぱりステーキ」は別として、「アッ!そうだステーキ」と「カミナリステーキ」は、訂正請求書と特許の取消決定がなされた後に参入しています。
 また、「やっぱりあさくま」と「ステーキ屋松」は、知財高裁の判断が出て特許の権利範囲が確定してから参入しています。

 結果として、株式会社ペッパーフードサービスは、特許が決着するまでの間に競合の参入を抑えて、いきなりステーキの店舗数をどんどん増やすことができたのではないでしょうか。

 現時点では、いきなりステーキに当時の活力はないようですが、事業拡大時における特許の上手な使い方だなと思います。

 この記事が御社のご発展に役立つことを願っています。

坂岡特許事務所 弁理士 坂岡範穗(さかおかのりお)
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