花王とアイリスオーヤマ、意匠権の攻防はどうなる?~アイマスク~
【稼ぐ経営者のための知的財産情報】
弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
今回は、「花王とアイリスオーヤマ、意匠権の攻防はどうなる?」をお伝えします。
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1.花王の知財関連ニュース
花王株式会社のウェブサイトによると、「アイリスオーヤマ株式会社より販売されているアイマスク「モイスクル じんわりホットアイマスク」について、花王の保有する意匠権(意匠登録第1330629号)を侵害するとして、2024年7月2日、東京地方裁判所に対象製品の販売等の差止めを求める仮処分の申立てを行いました。」とあります。
https://www.kao.com/jp/newsroom/news/release/2024/20240709-001/
仮処分とは、訴訟が提起されてから判決の確定までに権利侵害が続き、損害が拡大するのを防止するために、暫定的に差止め等を求めることができる制度です。
とはいっても、仮処分が認められた後で侵害訴訟に敗訴すると、相手方に対する損害賠償責任を負うことになりますので注意が必要です。
2.花王の意匠権
花王が所有する意匠権は、意匠登録第1330629号(本件意匠)でして、代表的な図面は以下のとおりです。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/DE/JP-2007-014505/30/ja
【耳掛け部を開いた状態の参考正面図】
【耳掛け部を開いた状態の参考斜視図】
もっとも、花王は他にも意匠権を多数取得しておりまして、例えば意匠登録第1756188号(別件意匠)といったものもあります。
【正面図】
3.アイリスオーヤマのアイマスクとは
対するアイリスオーヤマのアイマスクを、アイリスオーヤマのウエブサイトから見てみます。
ちなみに、アイリスオーヤマによる当該分野での意匠登録は、私が見た限りではありませんでした。
4.意匠の類否
ここで、意匠の類否判断について簡単に説明しておきます。
基本的に、登録意匠とそれ以外の意匠との類否の判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとされております(意匠法24条2項)。
その上で、基本的構成態様といわれる、意匠に係る物品全体の形状を認定し、両意匠を比較します。
次に、具体的構成態様といわれる、意匠に係る物品の各部の細かな形状を認定し、両意匠を比較します。
また、要部といわれる、意匠を見るもの(看者)の注意を強く引く部分を把握して、両意匠が要部を共通するかといった比較も行われます。
本の表現を借りますと「看者の注意を強く惹く部分を意匠の要部とし、両意匠が要部を共通するか否かを基準として、両意匠を全体的に観察し、視覚的印象の異同により類否を判断するというのが意匠の類否判断の基本的な手法である」(意匠の理論 初版 P117 吉田親司著 一般財団法人経済産業調査会)とあります。
さらに、意匠を構成する部分において公知なところがあるかどうかも参酌されます。
判例の一部ですが「したがって,その判断にあたっては,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,需要者の注意が惹き付けられる部分を要部として把握した上で,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。」(平23(ワ)3361号 大阪地裁 「立体フェイスマスク」に係る意匠権侵害差止等請求事件)ともあります。
5.両者の対比
私なりに、花王の所有する意匠権(本件意匠)に係る意匠と、アイリスオーヤマが販売するアイマスクとを比較してみます。
本来は、上記の基本的構成態様、具体的構成態様といったことを検討するのですが、書くのが面倒なので一言で表わします。笑。
目元を覆う本体シートは、あまり似ていない。
耳に引っ掛ける耳掛け部は、似ている。
これだけを書くと、全体として非類似じゃないの?と思われるかも知れません。
しかし、上で述べたように、要部がどこかという認定によって判断が変わってくる可能性があります。
おそらく、花王は、本件意匠の要部は耳掛け部にあって、耳掛け部の輪郭と耳を入れる穴の形状が看者の注目を惹く部分であると主張すると思われます。
一方、アイリスオーヤマは、本件物品の要部は目元を覆う本体シートにあると主張すると思われます。
私の勝手な推測ですが、意匠の要部が耳掛け部と認定されれば花王の勝ち、要部が本体シートにあると認定されればアイリスオーヤマの勝ちとなるのでは思っております。
さらに妄想は進みますが、仮に意匠の要部が本体シートにあるとしてアイリスオーヤマが勝った場合、花王は上記の別件意匠にもとづく権利行使をするかもしれませんね。
アイリスオーヤマのマスクと花王の別件意匠を比べると、本体シートが似ていると思いませんか?
今後、この争いがどうなるのか興味がありますね。
6.経営者が気をつけること
知財に関する争いはかなりの金額が必要になってきます。
訴訟するとき、1千万円は覚悟しておく必要があるとよくいわれます。
もっとも、最初から訴訟になることは少なく、先ずは警告から始まることが多いでしょう。
とはいっても、大企業は知財に敏感ですので、容赦ないことが多いです。
何か侵害していたときには、これまでの利益が全部飛ぶこともあるでしょう。
そうならないためにも、普段から他人の権利を侵害しないよう気をつける必要があります。
特に、海外から日本のヒット商品を真似たものを仕入れて売るような場合は注意が必要です。
コンセプトを真似るのは概ね合法ですが、他人の権利を侵害することは慎まなければなりません。
今回の場合、目元を温めるというコンセプトは模倣可能と思われますが、特許権や意匠権等をきちんと避けて販売することが重要ですね。
そして、少しでも疑義がある状態は避けた方が無難です。
今回は、耳掛け部が似ているために争いが起こったと思われます。
アイリスオーヤマくらいの規模ならば、訴訟に耐える体力があるでしょうが、中小企業の場合は厳しい場合もあると思います。
もっといいますと、さらに一工夫入れて、独自の特許権や意匠権を取得すると企業としての進歩もあるかと思います。
この記事が御社の発展に寄与することを願っております。
坂岡特許事務所 弁理士 坂岡範穗(さかおかのりお)
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