ザ・キャシュマシーン(R.クラフォルツ他)
三文字略語を活かすには
数年前ベストセラーになったゴールドラット氏の「ザ・ゴール」の営業プロセスへの応用編です。
基本は、やはりTOC(Theory of Constraints(制約条件の理論))です。
したがって、定番の「5つのステップ」が登場します。
STEP1 : 制約条件を見つける
STEP2 : 制約条件を徹底的に活用する
STEP3 : 非制約条件を制約条件に従属させる
STEP4 : 制約条件の能力を高める
STEP5 : STEP1に戻る
このあたりの考え方は、やはり、先書「ザ・ゴール」を先に読んでおいた方がいいと思います。私も数年前「ザ・ゴール」を読んだときは、そのプロセス・オリエンテッドな考え方にかなり刺激を受けました。
ある面、この本で示された営業プロセスは、最近のITの世界でお決まりの三文字略語 CRM(Customer Relationship Management)・SFA(sales force automation) ・SCM(supply chain management) で対象とされているもので、それらに対応した基本的な実現ツールは、パッケージ・ソフトウェアとしていくつも世の中に出ています。
たとえば、この本で「じょうごレポート」として紹介されたツールは、SFAでは「パイプライン管理」として搭載されているものとほとんど同じコンセプトです。
ただ、このパッケージ・ソフトウェアの機能は、TOCの5つのステップの「STEP1 制約条件を見つける」という点で役に立つだけです。この機能により顕在化されたプロセスの制約条件(ボトルネック)に対して、具体的にどういうアクションをどういう順序でとるのか、それが肝です。
TOCでは、その具体的STEPとして1~5の段階を提唱しています。ポイントは、STEP2と3です。ついやってしまう間違いは、STEP1からいきなりSTEP4に短絡的に飛んでしまうことです。
現状のボトルネックとなっているプロセスをまず活用し切るという「深堀り工程」がなければ、単にボトルネックのプロセスの処理量を向上させたとしても、プロセス全体が質的に改善されたことにはならないのです。
コンフリクト図
この本を読んでいて、先にご紹介したTOC(Theory of Constraints(制約条件の理論))以外にも、参考になりそうなツールがもうひとつありました。
本書のp76 p89 p120あたりに出てくるのですが、ある目的を達成するための手段が相対する(矛盾する)場合の頭の整理に役立つチャートです。この本では「コンフリクトの図」と言われています。
実際のチャート例は本で見ていただくとして、どんなものなのか言葉で説明すると以下のような感じです。(イメージは湧きますか?)
『AをするためにはBをしなければいけない。』といった流れ図を2種類書きます。
その場合、Aに至る前提としてB1とB2という異なる2つの条件を設定します。その設定された条件(B1とB2)は相矛盾(対立)するものを仮置きしておきます。
そして、その2つのロジックのいずれが正しいかを確認するのですが、その際、Bの前に『本当に』という言葉を付け加えてみることにより熟慮・検証する。
というものです。分かりにくいですよね。
簡単な例であげればこんな感じです。
・品質を向上させる(A)ためには、コストをかけなくてはならない。(B1)
・品質を向上させる(A)ためには、コストをかけなくてはならないとは限らない。(B2)
と仮置きして、それぞれの文の「B」の前に「本当に」という言葉を付け加えてみるのです。
・品質を向上させる(A)ためには、「本当に」コストをかけなくてはならない。(B1)か???
さっと読んだだけでは、そのとおりと思うようなことも、意識して「本当に」と問い直してみると、実際は、そうとは言い切れないケースに気づきます。
あと、本旨とはズレますが、本書の物語の中に以下のようなフレーズがありました。本書(原書)の出版が2004年ということなので、エンロン・ワールドコムの粉飾決算事件が強く尾をひいていたのでしょう。
(p128より引用) この業界に生きる多くのマネジャーにとって、成長はまさに宗教なのだ。その宗教がゆえに、しばしば下劣な企業買収や不正行為が行われたりしている。
まさに日本では、この手の話は今まだ真っ盛りです。
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