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「忠臣蔵」の決算書 (山本 博文)

(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)

 エコノミストの伊藤洋一氏がpodcastで紹介されていたので手に取ってみました。

 材料となった史料は、大石内蔵助が浅野内匠頭の正室瑤泉院に向けて残した「預置候金銀請払帳」、現在は箱根神社に所蔵されています。
 忠臣蔵関係の研究はそれこそ山のようにあるのでしょうが、討入りの生々しい実態を「金銭面」から明らかにするというアプローチはとてもユニークですね。

 まずは、討入プロジェクトの決算書「預置候金銀請払帳」に記された「収入(軍資金)」はいか程の金額だったのでしょうか。

(p86より引用) 『金銀請払帳』に記された、御家再興や討ち入りのために用意した費用は、・・・合わせて金六百九十一両といったところである。本書における金一両=十二万円で換算すれば、八千二百九十二万円である。

 このお金は、赤穂藩お取り潰しによる清算処理の「余り金」で、大石内蔵助が赤穂を離れた時から預かっていたものでした。

 内蔵助は、この資金を元に、浅野家再興に向けたロビー活動を行うとともに、討ち入りのための諸準備を整えていきました。
 その具体的な用途は、連絡用の旅費・通信費であったり、同志らの当座の生活費の補填等であったりしました。またその中には、討ち入りをはやる江戸急進派を抑えるための出費もありました。

(p133より引用) 内蔵助は江戸急進派を押えるために、金七十八両一分二朱と銀四十二匁もの出金をしている。現代ならば一千万円ほどの出費である。

 それほどの金額を費やさなくては、動揺する同志たちの思いや行動をまとめることは難しかったのです。

(p225より引用) お金がない者は、武士の体面を保っていられるうちに早く討ち入りたいと切望していた。だからこそ、内蔵助は彼らに生活費などを与えて、その気持ちを宥め、最もよい時期に討ち入りが敢行できるようにと心を砕いたのである。軍資金がなければ、間違いなく暴発する者が出たことだろう。

 「預置候金銀請払帳」に記された支出項目は113項目、亡き主君に対する仏事費から御家再興工作費、旅費・江戸逗留費・潜伏中の住居費・飲食費そして討ち入りのための武器購入費等々、その使途は様々、その記述は詳細にわたります。

 「預置候金銀請払帳」の最後は、こう締めくくられています。

(p255より引用) 金都合六百九拾七両壱分弐朱
請取金元ニ指引 金七両壱分不足 自分より払
右預置候金払之勘定帳一冊、御披見ニ入候、以上
   大石内蔵助

 内蔵助自身どこまでのシナリオを描き切っていたのかは定かではありませんが、元禄時代最大の耳目を惹いた討入プロジェクトを成功裡に導いたのは、この「預置候金銀請払帳」で顕かにされた内蔵助の緻密さ・誠実さ・律義さによるところが大だったのです。

(注: 本書は、2019年に「決算!忠臣蔵」のタイトルで実写映画化されましたね)




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