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まっとうな経済学 (ティム・ハーフォード)

 いつも拝見している会社の先輩のブログで紹介されていたので読んでみました。

 「希少性」「外部性」「限界費用」「ゲーム理論」等、経済学の基礎概念を紹介しながら、その応用形として現代の経済状況の種々の問題点をとりあげていきます。
 私のような経済学の素人よりも、ある程度基礎をマスターした人の方が楽しめる本かもしれません。

 私が、経済学的な捉え方としておもしろいと感じたのは、「非効率」の定義です。

(p131より引用) 私たちはもっとうまくやることができ、誰の効用も悪化させずに、少なくともひとりの効用を高められるということだ。

 別の言い方をすると「完全に効率的な状態における何らかの変化は、誰かの効用を悪化させることになる」ということでしょうが、こういう定義の言い回しはなかなか思いつきません。

 著者は経済の専門家ですが、ジャーナリストでもあります。ジャーナリストとしての目は、「搾取工場ですら働き場所があるだけまし」という厳しい現実を直視します。

 本書には、「経済学は、そういう人間の生活の現実をよりよいものに高めていくものだ」との著者の想いがこめられているようです。

(p361より引用) 結局のところ、経済学とは人間に関する学問である。

 このあたりの考え方や姿勢は、先に読んだ中島隆信氏の「これも経済学だ!」に通じるところがあります。

 本書では、貧困の問題も取り上げています。
 紹介されているのはカメルーンやネパールの姿です。ここでは一様に、政治に大きく依存した経済状況が描かれています。「政治による搾取」の現実です。

 そして最終章は、貧困の時代から飛躍的な経済発展を見せつつある「中国」のレポートです。
 中国経済が疲弊しきった毛沢東の「大躍進政策」から鄧小平による「改革・開放政策」への転換。
 2003年、自分で事業を立ち上げたヤン・リーさんをモデルに、経済学の意義を語ったくだりは印象的です。

(p362より引用) リーの両親は文化大革命を生きのびなければならなかった。祖父母は大躍進政策を生きのびなければならなかった。ヤン・リーには本当の意味での選択肢がある。それは人生の質に関する選択肢である。・・・
 ヤン・リーがした選択の意味を問う学問‐。それが経済学である。

 さて、今の中国はといえば、資本主義の偏在、あるいは行き過ぎた資本主義による「格差大国」ということになるでしょうか。


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