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ウェブを変える10の破壊的トレンド (渡辺 弘美)

 著者の渡辺弘美氏は、2007年までJETROニューヨークセンターにおいてIT分野の調査を担当していたとのこと。

 本書では当時最新だったWebの世界のトレンドを10のキーワードにまとめ、それぞれごとに、欧米を中心にすでに提供されているサービスや技術の具体的な紹介により、その内容や意味づけ等を明らかにしていきます。

 著者が示す「10のトレンド」は以下のキーワードでまとめられています。

ダイレクト(Direct)
フリー(Free)
クラウドソーシングCrowdsourcing)
プレゼンス(Presence)
ウェブオリエンテッド(Web-Oriented)
メタバース(Metaverse)
ビデオ(Video Hosting)
インターフェース(Interface)
サーチ(Search)
セマンティックテクノロジー(Semantic Technology)

 これらの中で、今までも言われていることを含めて、押さえておくべきいくつかの指摘を覚えとして書き留めておきます。

 まず、「Direct」の章における「主役の交代」について。

(p34より引用) 「ダイレクト」は、個人のニーズが多様化している時代が求めていたトレンドなのだ。
 ニュース、映像、広告などの、これまでマス(大衆)を相手に一斉に流れていた情報は、「ダイレクト」な時代では、ユーザーから選別されることになる。情報の選択権が配信者から利用者に移るのだ。

 また、「Crowdsourcing」の章では、「サービス提供の形態」について。

(p73より引用) さまざまな事例を見て感じるのは、プラットホームを持つサービス提供者がコンテンツも提供するという従来の形態よりも、サービス提供者はプラットホームの提供にとどまってコンテンツは集合知に委ねるという「クラウドソーシング」型のサービスのほうがユーザーに支持されるケースが増えてきたということだ。

 このあたりは、従来からの指摘の復習です。

 この他、SaaSやWeb OSという形で顕在化している「Web-Oriented」のトレンドについては、以下のようなコメントを加えています。

(p111より引用) 大きなトレンドとして「ウェブ・オリエンテッド」の方向に時代が変化していることは間違いないが、何もかもウェブベースに総置き換えすることでユーザーの利便性を損ねるようならば本末転倒ということだ。

 さらに、こう続けます。

(p111より引用) 「ウェブ・オリエンテッド」は、ハードウェア、ソフトウェアからサービスへというベンダー側の視点だけで捉えるべきトレンドではない。「ウェブ・オリエンテッド」の潮流により、ユーザー側の企業のビジネス・スタイルも破壊的に大きく変わるのだ。
 第1に、コア・ビジネスへの特化という変化をもたらす。・・・
 第2に、「ウェブ・オリエンテッド」は業務プロセスの改善をもたらす。・・・
 そして第3に、「ウェブ・オリエンテッド」は企業の生産性を上げる武器にもなる。・・・

 最後の覚えは、「Semantic Technology」についてです。
 このトレンドについては、私もほとんど意識していませんでした。ここでのキーワードは「関連性」です。

(p207より引用) 第3次産業革命であるともてはやされた「情報化社会」とは、単体での情報の価値の重要性を説くものであった。セマンティック技術の登場により、単に情報であれば価値がある時代は終わり、情報の意味や情報の関連性が重要になってくる時代へと転換していく。セマンティック技術は、我々を「情報化社会」から「関連性社会」へと導く破壊的トレンドなのだ。

 本書は、全体の構成としては、著者のコメントよりも、当時、欧米を中心に顕在化しつつあった技術・サービスの具体事例を数多く掲載しています。
 あえて事実・現象の列挙に重きをおいた本書のコンセプトのおかげで、紹介された情報の密度は濃くなり、私としても、いろいろな気づきを得ることができました。

 この本の情報鮮度はすぐに低下するのでしょうが、本書で著者が示した姿勢はこの世界では非常に重要です。

(p210より引用) 破壊的トレンドは、ここに紹介した10のキーワードがすべてではない。・・・大事なことは、破壊的トレンドになり得る小さな変化を見逃さずに捉えることだ。日々伝えられるイノベーションに関する情報が、これまでの延長線上にある動きを示すものなのか、これまでの延長線上から外れた新たなものなのかを判別する必要がある。
 最初、変化は小さな点のようなものに過ぎないので見逃すこともある。しかし、いくつかの点が結び付いてだんだん短い線となってきた段階で破壊的トレンドが起きていることに気づかないと、取り返しがつかないことになる。

 Webの世界に限らず、あらゆるマーケットシーンに関わる人々にとって最も大切な指摘ですね。


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