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ザ・プロフィット (スライウォツキー)

問いの嵐

 会社の方が勉強会のテキストにしているとのことで読んでみました。
 1章でひとつ、合計23の利益モデルが紹介されているのですが、構成としては、経営のプロフェッショナルである教師役が、有能な若手ビジネスマンに1パターンずつレクチャーしてゆくというストーリー仕立てになっています。

 この本で紹介された「顧客ソリューション利益モデル」「製品ピラミッド利益モデル」「マルチコンポーネント利益モデル」「スイッチボード利益モデル」「時間利益モデル」「ブロックバスター利益モデル」「利益増殖モデル」「起業家利益モデル」「スペシャリスト利益モデル」「インストール・ベース利益モデル」・・・等々の23もの利益モデルは、網羅性と相似と相違を意識したパターン化という観点から、非常にいい頭の整理になります。

 また、ストーリーが教師と生徒との会話という形で構成されているので、メンターとしての指導方法の訓練という点でも興味深いところがありました。
 本書のメンター(教師役)は、生徒に自分の頭で考えさせるためにたたみかけるような質問を発し、生徒の答えを次々と促していきます。 

(p124より引用) 彼は急ピッチで思考モードに入った。・・・
 「クワント?」 (答え)
 「もっと高くできるかな?」 (答え)
 「クワント?」 (答え)
 「それ以上は?」 (答え)
 「よろしい。他には?」 (答え)
 「かなりの?」 (答え)
 「クワント?」 (答え)
 「他には?」 (答え)
 「するとどうなる?それはどんな意味を持つかな?」 (答え)
 「つまり?」 (答え)
 「他にも何かあるかね?」 (答え)
 「その結果?」 (答え)
 「それでどうなるかね?」 (答え)
 「いいだろう」ここでチャオは質問の手を少し緩めたが、これで十分だと思ったわけではなさそうだった。「いままで挙げた要因で、15%の差が生じた理由を説明できると思うかね?」

 考えの具体性を追求し、発想範囲の拡張を求め、思考内容の意味づけを明確にさせて行きます。

利益を考える

 この本は、非常に合理的な(淡白な)作りとなっています。各章ごとにひとつの利益モデルを採り上げて、その利益モデルの基本スキームの説明、勘所についてのディスカッション、当該モデルの具体適用例の紹介等がサクッと書かれています。

 その点では、内容的に少々物足りない感じを受けるかもしれません。が、本書は、ひとつひとつのモデルの深掘りよりも、まずは、一口に「利益」といってもその源にはさまざまなバリエーションがあることを示し、読者自身による今後の探究の「先導役」を果たすことを目的としているように思いました。
 各章ごとの「宿題」や「課題図書」の提示は、「あとは自分の頭で考えなさい」という著者の想いの現われです。

 ちなみに、ここで紹介されている課題図書は、必ずしも経営学やマーケティング関係に限定されておらず、他の人文科学系や数学・天文学関係等の書籍も含まれていて、思索を広げるヒントになりそうです。

 あと、この本で参考になりそうという意味で気になったコンセプトです。
 ひとつは、「早期積み込み方式(フロント・エンド・ローディング)」

(p95より引用) 最初に詰め込むということだ。最後ではなく、最初の48時間で読めるだけ読む。・・・できるだけたくさん、できるだけ速く読む。・・・プロジェクトの一番初めの段階でこれをやるんだ。
 すると、どうなるか。不十分ながら非常に力強い知識の骨格を作ることができる。なぜか。のちに実際のビジネスで遭遇するアイディア、あるいは仮説が、その骨格に組み込まれて時間とともに進化していくからだ。

 もうひとつは、「シェア・デターミング・セグメント」です。

(p160より引用) 市場シェアを決定するほどの影響を持つ重要なセグメントのことだ。そこで大きなシェアを獲得できれば、それがそのまま市場全体での大きなシェアへとつながるセグメントだよ」

 たとえば、医薬品分野の専門家(専門医)・建築資材分野の建築士等がこのセグメントの代表例です。

(p161より引用) 平均的な顧客に5ドルの宣伝費を使うより、シェア・デターミング・セグメントに1ドル使う方が効き目がある

 最近のWebマーケティングの世界では、広い意味でインフルエンサの一類型とも言えます。


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