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知的ストレッチ入門 (日垣 隆)

「日垣流」知的生産の技術

 いつも拝見している会社の先輩のブログで紹介されていたので読んでみました。

 日垣隆氏の本は初めてです。
 「読む」「構える」「考える」「創る」「書く」「疑う」「決める」の7つの章に分けて、「日垣流」知的生産の技術をテンポよく紹介しています。

 そのなかで、私がなるほどと思ったフレーズを2つご紹介します。

 まずは、「説得と納得」についてです。

(p35より引用) その人がものごとをどうやって納得したのか、を知っておくということです。・・・納得したのは自分ではなく相手なのですから、相手の納得の仕方に沿って話を進めなければならないということです。
 ・・・人を説得するときだって、相手の納得の仕方を理解しておかなければ上手くいかないことのほうが多い。説得するあなたが納得するストーリーで、相手が納得できるとは限らない。つまり、説得することと納得することは、単純な表裏一体の関係ではないということです。

 この点は、言われてみればそのとおりですが、この“視座の転換”の大切さはなかなか気づきません。「相手」の思考回路を辿ることが大事です。説得には納得が必要で、納得するのは「相手」だという基本的なことが、しばしば忘れられてしまいます。
 私の別のBlogでも、だいぶ以前に妹尾堅一郎教授の指摘ということで「プレゼンテーションはプレゼント」という考えをご紹介しましたが、まさに同じ趣旨ですね。

 合目的的に考えれば、自分が「納得」できなくても、相手さえ「納得」すればよいとも言えます。ただ、この考え方は、「目的のためには手段を選ばず」という行動にも繋がるおそれがあります。逸脱を防ぐ良識も必要です。

 もう1点、なるほどと思ったのは「成長する力」についてです。

(p131より引用) 才能のある人はいいけれども、才能がなくて、これから努力していかなければいけない人は、終わったことの余力で食うようなことをすると、決して成長には結びつきません。
 もともとエネルギーのある人間はともかくとして、自分はそうではないと思っている人は、「確実にできる仕事」ばかりしても、成長する力にはならないでしょう。

 まさに「思考と行動のストレッチ運動」が必要な所以ですし、私自身、大いに反省しなくてはなりません。

ストレッチしないマスコミ

 本書のところどころで日垣氏は、いわゆる「マスコミ」を揶揄しています。
 まずは、旧態依然のマスコミの代表格である「全国紙」の流行感度について、「Blog」をネタにこう切り込みます。

(p156より引用) 総合的に判断して、2004年から始まった日本におけるブログ・ブームは、終焉に向かいつつあります。・・・
 全国紙までがブームに言及し始めたのも、そのブームが去りつつある逆説的な証拠です。流行感度の鈍い一般紙がとりあげるころには、たいていブームはピークを過ぎているというのが日本の常識ですから、そのような指標を見つけるためにまだまだ全国紙から目が離せません。

 最後のフレーズは、極めて辛辣かつシニカルですね。

 もう一点、こちらの指摘は、先の流行感度の鈍さに比して、より実害が大きいと思います。「マスコミの思考停止」についてです。

(p181より引用) マスコミの人々は、自分たちこそ社会の木鐸であり、世の中に警鐘を鳴らすのは使命だというテーゼで動いていますが、そのテーゼを真面目に実践すると、どんな局面でも「とりあえず危ないと言っておけ」ということになりかねません。しかも、それは、常に絶対的な「善」になれる思考停止なのです。

 これは、先に読んだ「ダメな議論」という本でも、著者の飯田泰之氏「反証不可能な言説」として指摘しているところです。
 そのとおりのことが起こると「指摘したとおり」だと言い、それがおこらないと「指摘したことにより防がれた」と言うのです。

(p182より引用) 危険を煽っておけば、どっちに転んでもマスコミは責任を問われることがない。これがマスコミの思考回路の実態です。

 現在は、SNSやWebを通じて公式・非公式、ホント・ウソ、経験・伝聞・・・玉石混交の情報がネット上にリアルタイムで発信されています。
 そういう時勢において、マスコミの代表格である「新聞」に求められる能力は、新聞ならではの付加価値になります。

 日垣氏は、その付加価値を以下のような能力として期待しています。

(p189より引用) 最も肝心な能力は、その場でしか通用しないヲタな情報を集めることではなく、そのニュースを歴史的に位置づける智恵と体験でしょう。

 さて、今の「新聞」。日垣氏のいう“付加価値の付与”に至るまでもなく、そもそもの“事実の把握”“真実の追求”といったメディアとしての基本姿勢すら危うくなっているのが実態のように見受けられます。
 フェイクニュースの流通等SNS上での情報ノイズがますます強まるなか、「オールドメディア」の復権にも “一縷の望み” を賭けたいのですが・・・。


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