風の良寛 (中野 孝次)
良寛の名前はよく聞いていましたが、その人物像については本書を読むまではほとんど知りませんでした。
良寛(1758~1831)は、江戸時代、越後国出雲崎に生まれた曹洞宗の僧侶、和歌や漢詩を能くし書家としても有名です。
本書で描かれている良寛の姿は、「正法眼蔵」を体現しようとした禅宗の僧侶でありながら、また老荘の人でもありました。
本書は、良寛の漢詩や和歌を数多く示しながら、良寛の人ととなりを飾らぬ筆致で描き出していきます。
私の場合、漢詩については、意味をとるだけでも正直難しいレベルなので、ましてや、その良し悪しや味わいを理解する素養は皆無です。
他方、良寛の和歌は、直截的な表現が多く、またより現代の言葉に近いせいもあり、私にとっても、少しは受け入れやすく感じられました。良寛の没後、「蓮の露」「良寛禅師歌集」などの歌集が編纂されているようですが、その多くは万葉集の影響を受けたものだといいます。
良寛は、生涯無一物の境界に身を置き尽くしました。良寛の徳を慕い庇護しようとする人は数多くいたので、欲すれば穏やかな生活を営むこともできたのです。しかしながら、良寛は自らの強い意志で、幾度となく身を0地点に引き戻しました。無・空・虚の姿です。
著者は、この良寛を、現代人の姿を映す鏡たるべきとみています。
有為の価値に対する大いなるアンチテーゼです。
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