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「場の空気」が読める人、読めない人 (福田 健)

コミュニケーションの幻想

 最近の私の関心時のひとつは「企業におけるメンタルヘルス」の問題です。それに関して、有効なメンタルヘルス対策として常に挙げられるのが「コミュニケーションの活性化」です。

 今回の本は、コミュニケーション、特に「会話の活性化」のヒントになるかと思い、手に取ったのですが、いくつもの新たな気づきや改めて認識し直した点がありました。

 まずは、「コミュニケーションの幻想」です。この現実をスタートにするかしないかで、対策は全く異なってきます。
 著者は、「幻想を前提とした努力」を求めます。

(p72より引用) 身もフタもない言い方に聞こえるかもしれないが、「コミュニケーションは通じなくて当たり前」なのである。あの皮肉屋のバーナード・ショウはこうも言っている。
「コミュニケーションの最大の問題は、それが達成されたという幻想です」
ものの言い方の心得は「話は通じないもの」という現実を直視することからはじまる。そのうえで、
・少しでも通じるよう、努力と工夫を重ねる
・通じなくても、ねばり強く話し合いを続けて、理解し合える領域を広げる
このような地道なプロセスを通じて、身につくものなのである。

 もう1点、「コミュニケーションは聞き手が主役」だということです。

(p204より引用)
・相手は何を言いたがっているか
・相手の一番聞きたがっていることは何か
右の二点をしっかり聞き取るようにしたい。

 主役も何も、「聞き手」がいないとそもそもコミュニケーション自体存在しようがありません。「聞き手」はコミュニケーションにおける必要条件であり制約条件です。

 「聞き手」にはいろいろなタイプがいます。千差万別です。したがって、相対する「聞き手」によって、生まれるコミュニケーションのスタイルが異なってくるのは当然です。そう考えると「聞き手が主役」ということもよくわかると思います。

(p213より引用) コミュニケーションを成立させるのも聞き手であり、コミュニケーションの効果を決定するのも聞き手なのだ。・・・
「話したことの意味を決めるのは、話し手ではなく、聞き手である」
 意味の決定権は聞き手に握られているのである。・・・話し手にとって聞き手とは、自分の思い通りに話を聞いてくれる相手ではない。聞き手の思い通りに話を聞き、意味を決定する存在なのである。

 この点は、日垣隆氏が、先に読んだ「知的ストレッチ入門」の「説得と納得」のコンテクストの中で指摘している点と同根です。

 聞き手を主役と考えるためには、「立場を相対化する能力」が必要になるのですが、まずは、あれこれと難しく考えるのではなく、自分の聞き方を反省し、「相手の気持ちになって一拍置く気遣い」を大事することから始めようと思います。

会話の気遣い

 相手に対する気遣いは常日頃の会話においても大事ですが、何らかの特別の心理状態のとき(たとえば、相手が成功したとか失敗したといった場合)には特に気をつける必要があります。

 「ほめる」にも「叱る」にも、きちんとした対応能力を身につけなくてはなりません。

(p28より引用) 叱るのは難しいがほめるのは簡単。その気になれば誰にもできる。
 右の一文は、数多いコミュニケーションに関する思い込みのなかでも、代表的なものの一つに挙げられる。なぜ、簡単であり、やさしいと考えるかと言えば、「ほめる」を「おだて」「お追従」「おべんちゃら」と同類のコミュニケーションと勘違いしているからである。これは、実に浮薄な捉え方であり、誤りである。「ほめる」には、
・人の長所、美点を見抜く眼力
・相手の良い点を受け入れる度量
・場の空気に合った適切な表現力
などの力が伴っていなければならない。

 また、緊迫した場面で、ホッと緊張を解くような一言を発することも結構難しいものです。なかには、こういう「ガス抜き」の役回りを驚くほどうまくこなす人がいます。まさに人柄・キャラクタとして適役というタイプです。

 著者は、「思いがけない一言」を発するための秘訣として2点挙げています。

(p188より引用) 第一に、否定的現状を肯定的に捉え直す態度を持つこと。否定的な現状に対して、「やめなさい」「いい加減にしろ」と、感情的になって責めるところからは、ユーモアに富んだ一言は生れない。

 たとえ失敗であっても、それを否定的に捉えないということですね。よく言われるように、失敗にもそれはそれで大きな価値があるのです。

(p189より引用) 失敗して落ち込んだような場合にも、失敗という否定的現実を肯定的に捉え直すのがよい。発明王エジソンには、次のような言葉がある。「失敗も、このやり方ではうまくいかないということがわかっただけ、前進である」。前進と捉えたからこそ、数々の失敗を乗り越えられたのだろう。

 もう1点は、「心の余裕・オープンマインド」です。

(p189より引用) 第二に、心をやわらかく保つこと。心をやわらかく保つには、心を状況に対して開いておかなくてはならない。自分の考え、やり方に固執すると、「そんなのおかしい」「絶対間違っている」と、心を閉ざして他を受け入れようとしなくなる。・・・
 よく「事実が問題なのではなく、事実をどう解釈するかが問題である」と言われるのも、頭の中に形成された観念が勝手な解釈をするからである。体の筋肉ばかりでなく心の筋肉も揉みほぐして、やわらかな状態にしておきたい。

 たとえば、「絶対」ということばを使わないように心掛けるだけでも、肩肘張った空気が和らぐかもしれません。

(p227より引用) 努力してもうまくいかないからといって、努力する価値はいささかも変わらない。話しても通じないからといって、話すことの価値は変わらない。だからこそ、知恵が生れるのだ。

 本書での数々のアドバイスは、まさに「言うは易し、行うは難し」ではありますが、チャレンジする価値は十分ありますね。


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